錦織圭、不安定さは解消されずもサーブ良しダウンザライン良し。(2017ハレ1回戦 vs. ベルダスコ)

錦織圭の安心と信頼のバックハンド

2017 Halle (ATP 500)
1st Round
Kei Nishikori[3] def. Fernando Verdasco, 6-7(5),6-3,6-4

 ブレイクした後にミスが出て流れを止めてしまう、ブレイクポイントがなかなか取れないなどの不安定な面はあったものの、良いショットもあり、最後は余裕も見られるキープで試合を決めました。

試合の流れ

1stセット 6-7(5)

 1stセットは両者ミスが少なく、決定力がある素晴らしいプレーでした。特にベルダスコが良く、フォア、サーブはもちろん、バックハンドまで鋭角に速いショットが決まっていました。

 ついこの間まで(たっぷりと)クレーのプレーを観ていたので、芝のテニスの速さに最初、ついていけませんでした。とにかくポンポンとポイントが決まります。「打点に入って、足を止めて打つ」という場面は少なく、動きながら流れの中で打つショットが増えます。スライスやライジングも増えます。とにかく、迷わず先手を取っていかなければなりません。
 
 錦織は1stセット終盤まで、1stサーブが入ったときのポイント獲得率が100%を維持。しっかり3球目攻撃に繋げることができていました。クレーシーズン後半から好調のフォアハンドのDTL、あるいはコート中央から逆クロス気味のショットが良く決まっていました。サイドに切れることがなくなりました(この試合では、確か1本だけ)。

 ただ、深いボール、速いボールには差し込まれて例の「振り上げフォアハンド」になる場面がまだ多く、フレームショットや持ち上げられないショットが見られました。サーフェスが速いのである程度は仕方ないのですが、肘を体に近づけるテイクバックの構造的問題もあると思います。このテイクバックは引きつけて打つことには向いていますが、芝ではもっと軽い感じで振りたいところ。シンプルに「早めに後ろに引いて、前に振る」イメージでいいと思うのですが・・・。
 
 両者キープを続けタイブレークに。まさに7−7からの長いラリー1本の差で取られてしまったのですが、ベルダスコの方がフォアハンドの分だけ良いプレーをしているように思いましたので、取られても納得しました。ミスは多くはありませんでしたが、フォアハンドが浅く入ってピンチを招くことが多く、このポイントでも錦織がフォアハンドで攻めながらも決定力を欠き、最後は逆にベルダスコのフォアハンドで仕留められました。このセットの内容を象徴するポイントでした。でも、このタイブレークはミスでなくベルダスコのナイスプレーで取られたので、問題なしで、2ndセット以降が勝負だと思いました。

2ndセット 6-3

 2ndセットに入ってもベルダスコのプレーは良く、錦織のサービスゲームでもポイント先行される場面があり、少し焦りました。そこまでのベルダスコの出来を考えると、ブレイクされると即、敗戦に繋がりかねない怖さがありました。
 ところが、第4ゲームに突如ベルダスコがミスを犯し、錦織がブレイク成功。ベルダスコもまた、結構こういうことをやってしまう傾向があります。最初からフルパワーで攻めてくるプレースタイルなので、どこかで息切れしてしまうのかも知れません。

 ここで波に乗りたい錦織でしたが、40−30からのダブルフォルトをきっかけにミスのお付き合いをしてしまい、ブレイクバックを許します。ここがこの試合、最大の課題でした。1試合を通じて安定したプレーを保つことが最近は難しくなっています。いいプレーも多いだけにもったいないゲームでした。

 ただ、ブレイクはどの場面でされても、「もったいない」と言われてしまうものです。

オープニングゲームでブレイクされる → 立ち上がりが悪い!
セット中盤・終盤(3−3や4−4)でブレイクされる → 勝負所なのに!
セットを取った後、次のセットでブレイク先行される → 流れを渡してしまった!
ブレイクバックされる → せっかくブレイクしたのにもったいない!
SFM、SFSを落とす → 終わってたのに!気が緩んでる!

 こんな感じだと思います。4−0や5−0からの被ブレイクは、その後キープすればあまり問題ないと私は思いますが、それも「中弛み」と言われてしまいまよね。結局、ブレイクをされると叱咤激励の対象となってしまうものですw あんまりブレイクに特別な意味を持たせる必要はないと思います。ブレイクはブレイク、どんな場面でもされるのは良くないものです。ブレイクバックは、ブレイク先行しているという意味で上記の中では「マシな方」と言えるかと思います。

 次のゲームで再びベルダスコがミスを連発しブレイクバックバック。今度はその後キープして(危ない場面ありましたが)、2ndセットは錦織が取り返しました。

ファイナルセット 6-4

 ファイナルセットは、ミスの増えたベルダスコに対し押し気味で進めますが、今度はブレイクポイントがなかなか取れません。フォアハンドのネットをはじめ、ミスで落とすことが多く、2015年終盤の状態を思い出しました。でも、ベルダスコの挽回サーブも素晴らしかったです。ベルダスコのサービスエースは14本。1stサーブの確率も71%と上々でした。
 第7ゲームでようやく捕まえ、最後は試合を締めてくれました。

芝初戦に勝利。安心と信頼のバックハンドが頼れる

 苦戦はしましたが、芝初戦でベルダスコの前半の出来が良かったことを考えると、勝てたので良かったと思います。サーブが良かったですし、バックハンドはいつもの「安心と信頼のバックハンド」でした。ダウンザラインの精度が高く、ピンチを救うのはやはりこのショットだ!という感じでした。フォアハンドは復調傾向だとは思いますが、まだピンチやチャンスでの信頼感が足りません。浅い球に対してはきっちり打てるようになったので、フォア側に振られたときの切り返しの深さ、角度を改善すれば、ほとんど穴のないストローク戦を展開できるようになると思います。

今後の展望

 2回戦はシモンとの初対戦を期待していましたが、カチャノフが上がってきました。全仏4回戦まで上がった若手伸び盛りの選手で、怖いです。というか今の錦織は、あまり楽に勝てる試合はないと思います。経験やゲームメイクの上手さ、ショットの多彩さなどでなんとか勝ち続けているという状況で、基本ショットの充実のみであまり考えずに押し切る、というテニスではありません。これはプレースタイル的に致し方ない部分がありますし、メンタルの問題が指摘されながらも、0−40からの挽回の仕方、窮地に陥る前の「注意」段階での早めのリカバリー、1stセットを取られてからの修正能力など錦織しかできないようなゲームメイクには目を見張るものがあります。こう考えてみてはどうでしょう。

「この状態でこれだけ勝てるのだから、調子が良くなればどうなってしまうのか。」

 全仏だって、かなりアップダウンありましたよ。コキナキス戦の苦戦。ラケットを折った3回戦。リタイアまで覚悟した4回戦の序盤。あんな不安定な内容で自己最高タイのQF進出ですから。マレー戦ではさすがに不安定さをカバーしきれませんでしたが、「パフォーマンスを出すために多大なエネルギーを必要としない状況」を作り出すことができれば、かつての爆発力を取り戻す可能性があると思います。何より、毎年故障がちなこの芝シーズンの初戦を、トレーナーも呼ばずに乗り切ったことは喜ばしいではありませんか。

 クイーンズでは第1シードマレー、第2シードバブリンカ、第3シードラオニッチが1R敗退と荒れています。誰でも難しい芝初戦を勝利でクリアした錦織、ナイスゲームでした。

 大先生がユーズニーに負けました。SF進出を狙う上では好材料ですね。大先生と対戦させたい気持ちもあったけど。
 とにかくこの大会の最大の目標はフェデラーと対戦し、芝のテニスを吸収すること!
 かつて、プイユのサーブを見て自分のサーブに取り入れた器用な錦織。サーブのイメージ、フォアハンドの面使い、スライスの使い方を盗め! そして、フェデラーに勝利して自信を付けよう! 大丈夫! 芝は自分のショットも決まりやすいし、高く跳ねるセカンドサーブも打ちづらい。決して、不利な面ばかりではないです。

小ネタ

Gerry Weber Open 公式Facebookが我々の気持ちを代弁!

錦鯉の祈り・・・!

はい、祈ってますとも。

62 件のコメント

  • ティーム、TBを取り切れませんでした。
    攻めて攻めていたのに、ハーセが落ち着いて返して、ついにはティームがミスする、という場面が重なっていき、最後はDF。

    あのー、ティームが負けたから書きますが、これで錦織君が次勝てば、WBで第8シードが取れるのでしょうか?

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  • @FUMA さま、@naka さま、

    はい、(暫定的にWBシード8位に上がるという意味では)nakaさんが正しいと思います。フェデラー(WBランキング5位)がワウリンカ(4位)を抜く条件と錦織選手(9位)がティーム(8位)を抜く条件は一緒で、ワウリンカ/ティームが1Rまたは2R敗退なら2ラウンド先が必要、それ以外は1ラウンド先で良いと書いてましたが、所謂「ティーム問題」(出場大会が多すぎてティームのハレ2R45pはATPポイントで換算されない、ただしグラスポイントには換算される)のため、錦織選手が2Rを戦う前のWBポイント差は90pを切っており、従って錦織選手が次の2Rを勝つとティームを抜いてWB第8シードになります。ただし、ベルディヒがロンドン優勝すると抜かれる可能性があるので、まだ8位確定とはならないと思います。詳しくは、フォーラム「目指せ全英第8シード以内」にて。

    また先走って、フェデラーWB4位シード(または3位)だとして、仮想(願望)ドローもアップデートしつつあります。フェデラーがWB第4シードに上がったら、第3シードのナダルとは決勝まで当たらないことになります。従って興味は、フェデラーがトップハーフ(マレー)なのかボトムハーフ(ジョコ)なのかです。錦織選手は、フォーラム「ATPランキング」のEloレーティングでみたようにグラスが得意とは言えない選手(ワウリンカ、ティームらクレーコーター)と同じ山に入りたいところです。

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  • ティームくんも負けましたか。クレーから芝への移行が難しいということなんでしょうか。クレーで活躍した選手が軒並み敗れているように思えるのですが、クレーでの身体への負担が大きくて疲れが抜けきれないまま、これまた負担のかかる芝というのもあるのですかね。

    そう考えると圭くんは凄いです。

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  • 禮さま、nakaさま。
    ウィンブルドンのシード、分かりやすくご説明いただき、ありがとうございます。
    時々フォーラムも覗かせていただいています。シードは気になるものの計算は全く分からないので、大変助かります。

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  • NORICHANさんご紹介のベルダスコ戦、スポナビ見逃し配信を見ています。西岡選手のゲスト解説、楽しいですね。勝った試合は余裕で見られますし。第1セット タイブレ終盤、錦織選手のリターンミスの後の
    もぉーっ‼︎
    がちょっとツボ。全仏の
    足!あし‼︎ (あれは泣けた…)
    もそうでしたが、世界で戦う彼の心からの声が日本語で聞こえてくると、ハッとしてグッと(古っ)きます。勿論ノリノリの時の
    かもぉぉぉーん‼︎
    をどんどん聞きたいですけど。

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  • @naka さん

    @禮 さん

    シードについて、情報&ご教授ありがとうございました。
    この仕組みは本当にざっくりとしか理解できておらず、詳しい方々につい頼ってしまいます。

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  • @mugmugさま

    わたしも日本語には、ハッとしてグッ ときます。

    もぉーっ!
    の時も「お~これも日本語よね」と私もちょっとツボでした。
    あたりまえだけど、我々がミスった時とと同じだー・・・なんて・・・

    ところで
    かもぉぉぉーん!!
    は日本語でいうと
    よっしゃぁぁぁー!!
    ってかんじでしょうか?

      引用  返信

  • @つるみ さま

    そうですね、きっと
    よっしゃぁぁぁ〜‼︎
    ですね。少なくともテレビ前の私は、
    よっしゃぁぁぁ〜‼︎ と叫んでます。

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  • mugmugさま
    自身で紹介しておきながら、実は私、まだ見られずです(笑) 見逃し配信って、期間はどのくらいあるのでしょうか。今週末でも大丈夫でしょうか。

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  • @NORICHAN さま
    トークの流れの中で西岡選手が
    復帰の折にはサーブ&ボレー キレキレになって戻ってきますよ、
    みたいな事を勢いで言っちゃった時に、
    見逃しで一週間残っちゃいますよ〜
    と言われてましたから、一週間位大丈夫だと思います。ぜひ頑張ってチェックしてみてください。

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  • mugmugさま
    有難うございます! 週末に時間作ってチャレンジします。楽しみです。

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。