【鼻血ブログ推薦図書】内田暁 著「錦織圭 リターンゲーム」書評【錦織本オススメNo.1!】


オフなのでオフらしい企画など少しやってみようかなあ~ということで、今日は書評を。
2015年は数多くの錦織本が発売されました。
特に錦織圭を長年取材されているジャーナリストの方々が出した本が多かったのが特徴ですね。

その中でも先月発売された内田暁さんの「錦織圭 リターンゲーム」は私の中で最もオススメの錦織本です!

錦織圭 リターンゲーム: 世界に挑む9387日の軌跡
内田 暁

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内田暁さんは長年のテニスファンにとってはおなじみのライターさんですね。Number、Sportiva、スマッシュなどの雑誌、Webサイトでその記事をたくさん読むことができます。徹底的な取材による深掘り、そして読ませる文章力に定評があります。

そんな内田さんによる渾身の錦織本は、「鮭の日」いやいや圭の日!である11月11日に狙ったかのように店頭に並びました!(Amazonでは10日となっていますが、これは出荷日とのこと)
いや、どうやら狙ったらしくw 内田さん的には大変こだわった点だと聞いております。

本の構成は、錦織の子供時代から始まり、最新の2015年全米オープンまでの軌跡を年代別に章立てして時系列で進んでいくスタイルで、とにかく1章ごとの内容が濃い!

数多くの関係者への綿密な取材がそれを支えています。

例えばIMGで過ごしたジュニア時代、米沢徹さんに呼び寄せられアシスタントコーチを務めたという戸田公平さんのことは、これまで他の書籍ではあまり紹介されていなかったと思います。

当時の米沢コーチや中村トレーナーの厳しい指導の中、良きお兄さん役として錦織、喜多、富田の3人の相談相手となった戸田さんから見た錦織像は必見です。ぜひ書籍でご確認ください。
私はこのような方がいらっしゃったことは今回初めて知りましたが、間違いなく今の錦織を作った人の1人でしょう。

また、ボロテリー師匠以下、アカデミーのコーチ・スタッフたちが早くから錦織の才能を見抜いていたことも分かりました。
アカデミーでの錦織の評価は当初は必ずしも高くなく、フィリップ・ベスターとの試合に勝利したことで評価が変わったのだと思っていましたが、実はこの試合にはそもそも特別な意味が込められていたようです。
これ以上はネタバレになりますので、そのあたりの興味深いストーリーも、ぜひ書籍で・・・。

こんな具合にプロデビュー前(2006年まで)にたっぷり3章も使われていて、いかにして錦織圭が作られたか、どういう家族や周囲の人々の支えがあったかが詳細に描かれています。
プロデビュー後の情報は比較的多く手に入りますが、こういう錦織圭のルーツを深く掘り下げた本は貴重ですね。

2009年の長期戦線離脱の当時の苦悩も細やかに描かれています。故障の原因が分からない苦悩と手術に至るまでの葛藤。そして周囲の支え。杉山芙沙子コーチとの二人三脚のリハビリから2010年の復帰へ。

その後の2011年からの活躍はもちろん描かれていますが、こういった錦織の苦労をしっかりと書き切っているところがこの本の好きなところです。

2015全米1回戦でペールに敗れ、人気(ひとけ)のないアカデミーの端っこで黙々と練習する錦織の姿でこの本は締めくくられていますが、寂しげな描写の中にも再び走り出そうとする錦織の決意が読み取れる文章となっており、応援する気持ちが強くなりました。

このように、「錦織はすごい!」だけでなく(もちろんそっちもしっかり書かれていますが)、そこに至るまでの過程を丁寧に記述し、「錦織圭は一日にして成らず」を実感することができる点がこの本の素晴らしいところだと思います。
(サブタイトルの「世界に挑む9387日の軌跡」がまさにそれを表していると思います。)

文章そのものや表現の素晴らしさも見逃せません。

「錦織はこういう人物だった。彼はこう思った」

という直接的な表現ではなく、エピソードから性格や心理を読み取るような描写をするのが上手い。想像力が掻き立てられます。
その時その時の情景がはっきりと浮かんできて、そこにかぶせるようにナレーションする、ストーリーテラーとしての内田さんの存在を強く意識することができます。
BGMさえも流れているような感覚に陥り、まるで上質のドラマや映画を見ているような感覚でした。

この手法は私が最も好きな場面、渡米直前、錦織の父清志さんが錦織と石光コーチを誘い、「堀川めぐり」(松江城のお堀を遊覧船で巡るツアー)に出かける場面でも使われています。

ここは、息子を厳しい世界に送り出す父親の、期待と心配が折り重なった微妙な心理が非常に上手く表現されていますので、皆様にもぜひ実際の文章で味わっていただきたい部分です。父親目線で読む私はここで涙腺崩壊。

そして時が経ち、息子は想像をはるか超えて大きくなって帰ってきた・・・。
そりゃあもう、こんな息子がいたら仕事も辞めてサポートしますわ。

まずい、この勢いで書いてしまうと本の内容、全部書いてしまいそうなのでこのくらいにしておきますが、

とにかく買って間違いのない本です!
文句なくおすすめ。

鼻血ブログ推薦図書にエントリーします!

錦織圭 リターンゲーム: 世界に挑む9387日の軌跡
内田 暁

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21 件のコメント

  • 私も前にも書いたように、いっきに読んでしまい、この本が今まで読んだなかで一番感動しました。私的
    には、「火花」よりです。団長さんみたいにうまく表現できませんけど、その通りです。
    テニスを知らない、錦織を知らない人が読んでも感動しますよ!ぜひぜひ!

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  • リターンゲーム、読み終わりました。団長のご意見に大賛成です。特に2009年の章。自分も苦しい時で、このブログと圭自身のブログが頼りでした。が、更にいろんな裏話が。まだの方は是非!

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  • ジュニアの選手の親御さんには、是非読んでいただきたいですね
    僕は子供の試合を緊張感たっぷりで(子供にはさぞかしプレッシャーだったと(^^;)おまけに、なんで練習の時のように打てないと罵倒し、萎縮さしていました
    よく、グレなかったと(^^
    テニス会場ではち父親に怒鳴られ”歩いて家まで歩いて帰ってこい“と言われて真っ赤な目をしてうつむいてた子もいました(全小でベスト4の子供でしたが)
    地区予選で自滅したからでしょうね
    その子は小学校でやめてしまいました
    ;うちの子は高校卒業までよくやってくれたと、ただ、全国でも結構強い大学に入学したのにテニスは続けませんでした
    テニスばっかの大学生活は嫌だと言われました
    自分の話ばかりでm(__)m
    つまり、言いたいのは、時間も費用もかかりそれでもテニスに打ち込んでる親子には是非読んでらいたいです、

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  • なるほど〜、本人の気持ちと、親のサポートと、いろいろ噛み合わないと難しいんですね・・・。
    親御さんの気持ちも分かります。
    子供の気持ちも分かります。
    それだけ強くなっても、もうテニスはいいやという気持ちになってしまうモノなのですね。
    私は全然勝ててないのでまだテニスは飽きませんけど、テニスできる環境だったらだったでいろいろと悩みがあるもんなんですね。
    難しいなあ〜。

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  • 「リターンゲーム」買ってきました。
    私にとって初の錦織本です。
    今まで特集記事の載った雑誌は買ったりしてましたが、このての本にはなんとなく手が出せずにいました。
    たぶん本読んで今まで知らなかった事をしったり、感動したりして錦織選手に対する思い入れが強くなってしまうのを恐れてたんだと思います。試合見る時のドキドキが倍増しそうだから・・・
    今回、団長さんの一番のおすすめというので、勇気を出して買いました^^;
    時間の余裕があるときにじっくり読みたいと思います。

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  • 私は発売してすぐに買って、ついあとがきから読んでしまいました。
    内田さんがその後、あとがきは出来たら最初に読まないでくださいとSNSでおっしゃっていました。
    聞いたのが遅かったぁ。
    もうあとがき読んだだけで涙でした。なかなか読み進めない。その後最初から読みましたが、いちいち考え込んでしまって進まない進まない。

    ついには石光コーチの事を知りたくなり、フェイスブックで探し、お話までしてしまいました。

    その後も登場される方をいちいち調べてしまいました。読んでいるとその方達の現在が気になるのです。

    そんな訳でとても読むのに時間がかかり、まだ14歳の所で止まっています。
    また時間のある時に続きをじっくり読みたいと思っています。

    これもネタバレになってしまうかな??
    錦織さんはこの本は引退してから読むと内田さんに言ったそうです。

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  • 私も団長さんの意見に賛成です。
    非常に読みごたえがありました。さまざまな場面の描写が良いですね。

    他の「ダウン・ザ・ライン」や「錦織圭 さらなる高みへ」も写真が豊富でその場の雰囲気が伝わってきて保存版として良いですね(2014年メンフィスでのカルロビッチの身長差など笑っちゃいます。)

    もちろん「頂点への道」も。

    ここ最近の本はほとんど読んでいます。

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  • これは買わねば!ですね。
    内田さんの文章もきっと素晴らしいのだろうと思いますが、
    団長の熱い推薦文も負けてませんよ!!
    急いで書店に行かねば!

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  • とてもうれしく読みました。圭君への著者の思いも尊敬感もひしひしと伝わってくる良い御本でした。
    尊敬しすぎて読む本としては形容詞が少し壮大に感じました・・もうちょっと抑えても十分伝わるし文章表現としてはそちらがいいなあとちょっと思いました。
    何度も読み返したくなりました。私のお宝本になりました。ありがとうございました。この本に出会えたのもこのブログのおかげです♪

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  • 錦織選手の親御さんのメンタルも相当タフでしょうね、、、
    私は,錦織が負けそうになると見ていられなくなりチャンネルを変えてしまう脆弱者です。
    中学生の娘のソフトテニスの試合も、見てるとドキドキのあまりチャンネルを変えたくなるほどです。変えれませんけど。たかが地方の市の大会ですから^^;
    時には[錦織圭の親]であることから逃げたくならないかなと私のような凡人は思ってしまいます。
    尊敬です。マックスです。

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  • http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151216-00824740-number-spo
    秋山英宏 氏のアガシ氏へのインタビュー記事です。
    「全米オープンと全豪オープンの2大会が最も勝つ可能性が高いと思います。全米はより大きな可能性がありますね。なぜなら、速いゲームになるので、彼のショットメークの力を生かしやすいからです」
    以前、読んだ記事では錦織選手自身は全豪での可能性を語っていましたが・・・楽しみですね( `ー´)ノ

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  • のんびり半分ほど読んだところででた団長の記事!
    圭くん自身の努力や葛藤、家族や周囲の支え、不思議なめぐり合わせを語る、
    内田さんの落ち着いた押しつけがましくない文と組立にぐいぐい引き込まれていたところでしたので嬉しいです!

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  • 「頂点への道」を読んで非常に感銘を受けました。
    ブログをまとめた本なので、当時の心境がよく分かったり。

    「リターンゲーム」も気になっていましたが、こちらの記事を読んでさっそく買ってしまいました。
    読むのが楽しみです。

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  • 一昨日、大阪万博の11月に開場したエキスポシティに行ってきました。
    非常に大きなららぽーとがありその中に書店は1店舗だけ、ツタヤがありました。
    この店にはスタバも併設され、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、本を楽しむコーナーがあり、
    今まででない書店でした。この書店は大きくどこにどの種類の書籍があるかわからず、店員に聞いてやっとたどりつきました。そのコーナーで「リターンゲーム」の最後の1冊が残っており、すぐに購入しました。ラッキーでした。他の本はまだたくさん残っていました。昨日1日でこの本を読み切りましたが、色々のエピソードがその現場にいるような感覚で読めました。文章がうまいですね。今まで知らなかったエピソードをこれだけよく集めましたね。今後もこの本を何回も読みたいと思います。
    なお、この日は急に寒くなったせいか、人気の水族館が、普段は2時間待ち、誰も待っておらず、すぐに入ることができました。ここは普通の水族館と違い、ふつうは展示されない珍しい生き物だけが展示されており、水族館が好きな人であれば、何回行っても飽きないところです。

      引用  返信

  • あけましておめでとうございます。
    年末に「リターンゲーム」を買い、年初に読みました。
    錦織選手の軌跡を丁寧に積み上げてあり、読み物としても面白いし勉強にもなりました。
    戦績が列記されているので今後の観戦参考書として、いつも手元に置いておきます。
    読後感は…ひとことで言うと切なかったです。胸に迫るというか…本気で錦織圭に恋しそうです。あ、錦織圭のプレーに恋しそうです。
    つるみさんのお気持ちに、激しく首肯します。
    今年もよろしくお願いいたします。

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  • 「リターンゲーム」買いました、今前半を読み終わりました。そして涙をこらえるのが大変です。幼少期の事はさすがに脳裏に具体的な映像は浮かびませんけど、修造チャレンジやらデルレイのフォアスライス、ロディックの威嚇、全米のフェレール戦…全てこの前見た映像のようにクリアに思い出されます。申し訳ないけれど最近ファンになった方にはこの映像は見えないんだろうな。。。後半読んでる最中に阪神電車で涙しているおっさんが居たらそれは私です。。。

      引用  返信

  • こんなに前のトピックスに書き込むのは少し躊躇しましたが、ようやく購入できて、一気に読んでしまったので感想を少々。

    試合中の描写や様々な人間模様、華やかさと切なさが同居する感覚、宮本輝の「青が散る」を少し思い出しました(古い?)。ノンフィクションとは思えない中身と文章の表現力ですね。久しぶりにあっという間に本を読み切りました。また別の観点から錦織選手の試合が楽しめそうです。オススメです!

    昨年の全米での一回戦負けで終わっていますが、まだ折り返し地点という感じなので、数年後に「中」なのか、「下」なのか分かりませんが、是非書いて欲しいです。

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。