ストリングのテンションとトップスピンの関係(テニスの物理)

先日こんな質問を受けました。

「もっとスピンをかけたいのですが、ガットをもっと硬く張った方がいいでしょうか?」

実験によるとテンションを変えてもスピンの量は変わらないそうです(出所:Technical Tennis: Racquets, Strings, Balls, Courts, Spin, And Bounce
, p.80)

しかし、それでも私は「スピンをかけたいなら硬い方がいいです」と答えました。

なぜでしょうか?

まず、高いテンションと低いテンションでは、打ち出し角度が違います。
(参考記事:ラケットのテンションを落としてもボールスピードは速くならない(テニスの物理)

すなわち、低いテンションの方が角度にして2度ほど上に飛びます。

この効果により、テンションを上げるとボールの飛距離が出ませんので、それを補うために人は強く打とうとします。

スピンの掛かり具合が同じでも、強く打てば多くスピンがかかります。

これが第1の理由です。

第2の理由は錯覚によるものです。

上の参考記事のタイトルはちょっと不適切でして、

「ラケットのテンションを落としてもそれほどボールスピードは速くならない」

が適切でした。

テンションを60ポンドから50ポンドに落とした場合、60mphのストロークの速度が1.2mph増したそうです(同じく「Technical Tennis」より)。

率にして2%。

大きな差ではありませんが、一応、低いテンションではボールは速くなります。

このように、スピン量は同じでもボールスピードが(多少)違うので、

ボールスピードに対するスピン量の比

は、高いテンションの場合に大きくなります。

つまり、同じスピン量に対してボールのスピードが遅くなるので、「見かけ上」たくさんスピンが掛かっているように見えます。

実際、高いテンションの方がスピンが掛かるという感覚をもっていらっしゃる方が多いと思いますが、それは上記2つの理由によるものだと思われます。

「テンションを高くするとスピンが掛かる」ではなくて、「スピンを掛けたかったらテンションを高くすると上手く行きやすい」という認識が適切だと思われます。

18 件のコメント

  • 毎回、自分が漠然と思い描いていることが間違いだと気づき、驚きます。
    ストリングのテンションが弱いとインパクト時のストリングの「たわみ」が大きくなり、ボールとの接触面積が増え(=摩擦抵抗が増え)、その分スピンがかかりやすくなるのではないか?と思っていました。
    教科書の該当頁を読みましたが、「ストリングのテンション(ゲージ、材質)は実質的にはスピンに影響がないと試験結果が示している」となってますね。
    弱いテンションの接触面積増分は、強いテンション=インパクト時にボールが擦れる強さの増分、と引き換えになっているのでしょうか?

      引用  返信

  • テンションが弱い方が接触面積が大きくなるかどうかは私は分かりません。

    テンションが弱いと、ストリングの変形が大きい分、ボールの変形が小さくなります。

    テンションが強いと、逆です。
    ボールの変形が大きくなるので、やはりその分ストリングとの接触面積はやはり増えます。

    テンションによりますが、ストリングとボールの剛性はほぼ同じくらいだったと思います。
    従って、実際に実験してみないと、どっちが接触面積が大きいかわからないと思います。

    それともうひとつ。実は、摩擦が小さいストリングの方がスピンがよくかかるのです。

    これはイメージと全く反対なので、驚きの事実だと思います。

    「摩擦が小さくて縦糸と横糸がお互いにすべって交差点がずれ,縦糸が横に伸びて戻るときの復元力によりスピンがかかる」

    のだそうです。

    高速度カメラの映像を解析した結果だし、研究者は日本の第一人者の川副先生(埼玉工大)なので確かな結果です。

    実験結果は以下のURLよりどうぞ。
    http://www.mira-fit.jp/72.pdf

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  • ん?待てよ。
    太いゲージに替えても(=ボールとの接触面積が増えても)スピンに影響がないということは、「たわみやゲージ程度の接触面積増加ではスピン量を増やすには足りない」と考えるのが自然かな。
    すみません、考えがとっ散らかってますww

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  • 一応、GOSENより、ガットの断面形状を扁平(長方形)にすることにより、ボールとの接触面積を増やすことによりスピンがよくかかるという「FGシリーズ」というガットが出ています。

    その理論の正しさは、私には判断つきません。

    また、1回使ってみましたが、そう言われれば掛かってるのかな?とは思いましたが、劇的に変わった気はしませんでした。
    (個人の感想です)

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  • 書き込み中に、書き込んでいただいたみたいで、ありがとうございました。
    摩擦が小さい方がスピンがかかるというのは、まさにイメージと真逆の事実です!! またもや、びっくりしました。
    しかも、このことを解析している方がいるなんて凄い。
    リンク先の実験結果はあとでじっくり読んでみます!!

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  • リンク先の論文を読みました。(正確には「眺めました」w)
    連続写真ではインパクト時の縦糸の伸びと戻りがよく分かり、グラフではストリング交点に注油して縦糸を滑りやすくしたときのボール回転量と接触時間の増加、振動の減少がよく分かりました。スパゲッティラケットの例も分かりやすかったです。
    常識を覆されました。かなりショッキングです。これからのストリング開発に影響が大きそうですね。それとも、もう既に影響しているのでしょうかね。

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  • どうでしょう?この理論自体は5~6年前のものですし、私の行きつけのショップの店長(ストリンガー)さんはご存知でした。

    が、それほど浸透しているとは思えませんね。巷のスピンガットも、摩擦係数を大きくしてスピンをかける、という趣旨のものが主流ではないでしょうか?

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  • 摩擦係数を大きくしてスピンをかけるって納得しやすいですもん、正直。多くのユーザーもきっと同じだと思います。
    この記事やリンク先の論文を読んだら見方が変わってきますね。たぶん。

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  • 摩擦係数に関しては、他のファクターを考慮しなければ大きい方が有利なのは事実でしょう。しかし、摩擦係数の数値が示されていないので正直どのくらいの効果があるのか分かりませんし、摩擦係数を増やす効果よりも、ガットのズレの復元力を利用する方が効果が大きい、すなわち、摩擦係数が低い方がトータルとして有利、ということだと思います。

    ひとつひとつの現象は単純ですが、多くのファクターを考慮に入れなくてはならないから、複雑になりますね。

    ラケットメーカーさん、ストリングメーカーさん、私を開発チームに入れませんかw

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  • 団長、転職に成功したら、ラケット&ストリング格安で譲ってくださいm(__)m

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  • いやいや、専門でやってる方にちょっと失礼な冗談でした。
    長年のノウハウの蓄積というのは、表に出ないけど相当なものだと思います。>メーカーさん

    それと、営業上の売り文句はまた別の話ですしw

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  • 摩擦係数というのは「ストリングの」というものではなく、「ストリングとボールの間の」あるいは「ストリング同士の」というように擦り合わされる2つの物体の表面状態で決まるものですよね?そう考えると「大きい方がスピンがかかりやすい」は前者の、「小さい方がいい」というのは後者のことを言っているのでは?

    この2つの摩擦現象は別のものであって両方ともスピンに影響するけれども、前者はもともと係数自体が大きく、ストリングを変えてもあまり影響されないものであるのに対し、後者の効果はストリングによってかなり大きく変わる、そういうものではないでしょうか。

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  • salishさん、おっしゃる通りです。ちょっと混同してしゃべってしまいました。

    「ボールとストリングの間の摩擦係数」と「ストリング同士の摩擦係数」の2つには正の相関関係があるという仮定を無意識のうちにしてしまっていました。

    ボール-ストリング間の摩擦係数については、具体的数字が分からないので「効果は分からない」と上でコメントしております。

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  • ガットに塗布する「ミラフィット」はスピン効果に有効でしょうか。

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  • ゴーセンのFGシリーズ、私も試しましたが私的には劇的に変わりました。

    キルシュバウムプロラインⅡ57ポンド⇒ゴーセンFGポリマスターⅡ55ポンド
    「ボールが乗っている」感覚があり(ガットは柔らかく感じるのに)、スピンは凄くかかりストンと落ちる。

    まぁ視覚と手の感触ですし、データを取っているわけではないので...感じ方は十人十色ですからね。

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  • ミラフィットというのは聞いたことがなかったのですが、潤滑剤だとしたら有効なのではないでしょうか。

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  • 人間の知覚のするどさによって、物理的には大きくない違いでも敏感に感覚として違ってくることがあります(これは物理の範疇外です)ので、あながち間違いではないのではないでしょうか>たなーさん

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  • 偶然このページに遭遇しました。私の知っているストリングに関するホットな参考情報を以下に紹介します。

    The New Physics of Tennis (テニスの新・物理)Unlocking the mysteries of Rafael Nadal’s killer topspin (ナダルの破壊的なトップスピンの謎を解く)
    http://www.theatlantic.com/magazine/archive/2011/01/the-new-physics-of-tennis/8339/ 

    英語ですが、ビデオ映像(重い)が面白いので、ぜひ,ご覧になってください.また、以下に日本語の要約があります(大変わかりやすい).こちらから入った方が良いかもしれません.
    New Physics Tennis。強烈なトップスピンのメカニズム http://shuzo99.blog83.fc2.com/  

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    ABOUTこの記事をかいた人

     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。