2017楽天ジャパンオープン決勝 ゴファン vs. マナリノ レビュー

 遅くなりましたが、せっかく決勝もこの目で見たのでレビューしておきます。

2017 Rakuten Japan Open (ATP 500)
Final
David Goffin[4] def. Adrian Mannarino, 6-3,7-5

 今大会、マナリノの快進撃が印象的でした。決勝はそれまでと比べるとイマイチだったと思いますが、それ以上にゴファンのショットの精度と戦略が良かったですね。
 ATP公式のハイライト動画が上がっていたのでアップしておきます。

マナリノ快進撃の分析

 マナリノは昨年のモンテカルロではダニエルのMTOに対し試合後に暴言を吐くなどコートマナーの悪さが目に付き、そこは私も好きではないのですがテニスは結構、興味深いものを持っています。今年のアンタラヤ、ウィンブルドンでの杉田との2戦でも味わい深いラリーを展開していました。

 マナリノは典型的なカウンターパンチャー。相手が打ってきた球をひたすら深く返してチャンスを伺うプレースタイルです。振り回して苦しそうでいて、返した球がことごとく深く、相手は焦ってミスをしてしまいます。月曜日(1回戦)での観察で、これがただ単に苦しいのではなく、ぶれない体幹とボディバランス、そしてコンパクトなスイングに支えられていることを理解しました。

 そして粘りを身上とする選手ながら、クレーコートに弱いという珍しいタイプ。サーフェス別の成績は、芝 .567、ハード .453、クレー .275とはっきりした傾向を示しています。
 コンパクトなスイングですから、相手の球速があった方が嬉しいタイプです。クレーで自分から振り回していくのは得意ではありません。高い球の強打も得意ではありません。
 つまり、速くて弾まないコートが得意。有明のサーフェスは、ハードコートの中では最もマナリノの得意なサーフェスだったと言えます。

 そしてマナリノの1回戦からの対戦相手は、添田、ベセリ、杉田、チリッチ。スピン系の選手がおらず、相性的に有利な球種の選手が続いたことも要因としてあげられます。
 
 チリッチ戦の、ファイナルセット6−0というスコアは上記全てが噛み合った上で、かつチリッチが負けパターンに入ってしまったということでしょう。チリッチは攻撃でグイグイと押し切るのは得意ですが、なかなか決まらないときに変化を付けることができる器用なタイプではありません。錦織がチリッチに勝つときもあのような試合展開が見られますし、逆に負けるときは2014全米のようにあっさりと押し切られてしまいます。

 もちろんマナリノのテニス自体の出来も、大会を通じて良かったと思います。29歳にしてキャリアハイの29位を記録。今年の彼が充実しているということは間違いありません。そのせいか、今大会はひどいコートマナーは見られませんでしたね。

意識してスピンを掛けたゴファン

 マナリノのプレースタイルを理解してたのか、ゴファンはスピン量を増やしたフォアハンドを軸に攻撃を仕掛けました。元々、チリッチらと比べるとスピン量は多めですが、ぐりぐりのトップスピナーというわけではありませんので意図的だと思います。象徴的だったのは1stセットのセットポイントで、ゴファンがクロスにフォアのスピンでアプローチ。マナリノがバックハンドのパスで返球するも、ネット中断へまっしぐらと準決勝まででは考えられないミスをした場面でした(上のビデオで2分12秒から)。マナリノはそれまでの対戦相手と違う球種にやりにくさを感じていたと思います。

 1stセットはほぼゴファンが試合をコントロールしていましたが、2ndセットに入るとマナリノが、自身のプレースタイルを捨てた強引な攻撃を仕掛けてきます。このままでは勝てないとの判断の上での変更でしょう。これが上手く行き、準決勝までの粘りも徐々に復活して先にブレイク。しかしゴファンがすぐさまブレイクバックすると、5−5から怒濤の攻撃でさらにブレイク。最後のサーブも勢いのままラブゲームで取り、初のATP 500優勝をもぎとりました。

 昨年は準優勝に終わったゴファンの執念が形になって表れたような形になりましたが、無理をしたマナリノが最後まで続かなかったことも想定のうちだったことでしょう。今年、大きな怪我をしてからの復活のゴファン(2週連続優勝)は、現在リハビリ中の錦織にとっても勇気を与えてくれる結果だと思います。

 動ける大型選手が増え、パワーテニスが隆盛を極める中、ゴファンやマナリノ、シュワルツマンのような選手は貴重でありいろんなヒントを与えてくれます。今の選手達は本当に穴がなく、苦手なショットが少ないですしサーブのレベルも底上げがされています。今大会、ハリソンに惜敗した高橋悠介も本当に上手いし、速いサーブも打てる(確率はまだまだか)。小兵の相対的な不利は覆らないものの、レギュレーションがビッグサーバー有利に今後、移行していくことはあまり考えられず、リターンやストロークの全体的な技術向上がサーブの優位を少しずつ押し戻していくのではないかと予想しています。

 北京と比べたら出場選手のランキングが低いことは明らかでしたが、なんだかんだで良いメンツが揃った大会でした。
現在のランキングが低めでも、実績はある選手が多かった。

グランドスラム優勝者:チリッチ
グランドスラム準優勝者:アンダーソン、ラオニッチ
グランドスラムベスト4経験者:ティーム、クエリー
トップ10経験者:チリッチ、アンダーソン、ティーム、ガスケ、シモン、ラオニッチ、ゴファン
トップ20経験者:カルロビッチ、トロイツキ、クエリー、ロペス、ドルゴポロフ、ラモス、ペール、トミック

 これに期待の若手がもっとエントリーしてくれれば・・・。シャポバロフが参加できなかったのは残念でした。
東口ロビーに、NEXT GENの有望選手のでかいポスターが貼ってありましたが、チョン、ルブレフ、ハチャノフ、メドベデフ、ドナルドソン・・・このあたりなら、アピアランスフィー(出場料)もまだ高額ではないでしょうから、まとめて呼んでみるというのも面白そうです。今年の本戦カットオフが61位でしたので、同程度だとすれば下記の選手達が本戦に入る事ができます。

ルブレフ 19歳、35位
シャポバロフ 18歳、50位
チョリッチ 20歳、55位
ドナルドソン 20歳、56位
ハチャノフ 21歳、40位 
チョン 21歳、60位

ズベレフも当然、ダイレクトインですが値段が高そうなので・・・。64位のメドベデフあたりも射程内です。
資金面ではどうしても北京には敵わないので、こういった工夫で。

東京に来てくれる選手には、お金ではなくて日本が好き、ジャパンオープンが好きだから来てくれる選手がたくさんいます。
キリオスなども、今年は北京に行きましたが中国の大気が持病の喘息に良くないみたいですし、日本のことが好きで日本での人気も高い選手なので、素行を理由に呼ばないのはもったいないと思うんですけどね(素行ならマナリノの方が・・・いやみんないい人ですよ)。 上海でもリタイアが物議を醸していますが、間違いなく根はいいヤツですし私は、呼んでほしいなあと思いますね。
 

10 件のコメント

  • 団長さま
    楽天決勝レビューありがとうございます。キリオス選手、日本にはヤジ飛ばす人もいないから来年は楽天に戻ってきて〜!と思います。

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  • 団長さま
    楽天シングルス決勝の記事ありがとうございます。
    まだ1週間、もう1週間・・

    楽天ジャパン、十分楽しめました(ダブルス日本ペア優勝もあったし)。
    私はシュワルツマン選手の各々の試合、ゴファン選手の各々の試合が面白かったです。
    シュワルツマン選手かなり好きになりました。 「ディエゴ!ディエゴ!」と大人気でしたから、気を良くしてまた日本に来てくれることを願います。
    でも準決勝はゴファン選手をひいきして応援。
    ゴファン選手とは親子くらいですが、惚れてまう~のです。 コート上を軽やかに走ってショットを決め、派手にガッツポーズはしないけど自信満々のどや顔見せ、前髪を左から右に流す仕草して構える(←すみません、本物のテニスファンに怒られそう)。 決勝はエンドライン付近のコートサイド席でしたが、アウトかと思ってもギリギリで落ちてインというショットをいくつも見ました。 マナリノ選手に対しても闘志を内に秘めつつ冷静に闘っている感じがしました。
    マナリノ選手は決勝進出が決まったときも(試合直後の疲労があったかもしれませんが)初のツアー優勝あと一歩というのに“あんまり?”な感じを受けました。 テレビで観るのと同じ、よくわからない人でした。 そういえば杉田選手との対戦、マナリノ選手のサービスゲームで何回もdeuce繰り返して緊迫しているときに、ボールパーソンの女の子からボールを受けた後、ラケット上に2つ乗せたボールを「右?左?君はどっちが良い?」みたいにして選ばせてる場面がありました。 なんだよー、余裕あんのかよー、と思いました。
    ゴファン選手、マナリノ選手の作戦にハマらずよくぞ勝ってくれました!!

    さ、来年は有明じゃない楽天ジャパン行くよー!
    錦織選手を全力応援だっ!!

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  • 団長さん、楽天オープン決勝のレビュー読みました(⌒▽⌒)
    今回の楽天、たっぷりTVで観戦しました。ランキングでは図れない各選手の素晴
    らしさを堪能できて満足です。
    決勝戦のゴファン選手とマナリノ選手のプレーに対する分析に唸りました。
    なるほどー( ̄▽ ̄)そういうあれこれがあっての、あのプレーなんですねぇ。
    どうしても錦織選手を思いながらの目線で見てしまう自分もいて、各選手のプレー
    から学ぶというか盗むというか、こうやったらいいかも…とか、どの選手もサーブ
    がいいぞ、錦織選手…頑張らないと…とか、ブツブツ観戦(笑)
    全体的な技術向上がサーブの優位性を少しずつ押し戻すという団長さんの予想は、
    こんなことをブツブツ思っていた私には励ましに感じられ、今後の錦織選手がどう
    進化するか、非常に楽しみです( ´ ▽ ` )ノ

    GOGATUさん、私もシュワルツマン選手のファンになりました。試合がホントに面白いです。あのパワーはどこから生み出すんでしょうね( ̄▽ ̄)

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  • シュワルツマン選手すごいですよね。
    私が初めて彼のプレーに目を止めたのが2015年の全仏オープンだったと思います。小さいのにコート内を走り回って拾って拾って拾いまくる彼の姿に釘付けになりました。対モンフィス選手(だったかな?)戦で超アウェーだったのに御構いなし。メンタルの強さもピカイチでした。
    今後さらに活躍が楽しみです。

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  • ミーハー意見をもうひとつ書かせていただくと、
    HEADのブースのシュワルツマン選手の横向きガッツポーズの写真が輝いていて
    惚れてまう~☆でした
    すみません m(__)m

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  • 団長さんの楽天OP決勝レビュー、マナリノ選手のプレーとゴファン選手の戦略に関する分析、うなずきながら読ませていただきました。
    怪我から完全復活(どころか進化)したゴファン選手の姿が見られたのは嬉しいかぎりです。マナリノ選手、今回はマナーが悪くなかったので純粋にプレーを楽しめました。一見ふにゃっとしたフォームながら、どんな体勢からも深くボールを返してくるのには驚かされます。

    初出場のシュワルツマン選手、魅力あふれるダイナミックなテニスで日本人ファンを確実に増やしましたね。ゴファン選手に惜しくも敗れた準決勝の後も、サインを求める大勢の観客に囲まれてこころよく応じていました。

    来年の楽天OP、会場は調布の武蔵野の森スポーツプラザですか。座席数が7500程度らしいので、チケット争奪戦が激しくなるかもしれませんが……錦織選手はもちろん、キリオス選手にも戻ってきてほしいですし、シャポバロフ選手もリベンジで出場してほしい。

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  • 私もだいあん様と同様、団長さまの決勝レビューをうなずきながら読ませて頂きました。なぜ今大会でマナリノ選手がこれほど活躍したのか、そして、そのマナリノ選手を破ったゴファン選手の勝因はどこにあったのか等々、興味深く拝読しました。
    テニスは本当に奥が深い。様々な要因によって戦い方が変わるテニスは、こうやって解説されるとますます面白い。
    シュワルツマン選手は、今年のマドリード2回戦で錦織選手とフルセットで戦ったことが記憶に新しいですが、本当に見ていて楽しい選手ですね。小柄で活躍している選手は、とにかく良く動くし速い。どうやって巨大な相手を倒そうか、色々工夫があって面白いです。
    リターンやストロークの全体的な技術向上がサーブの優位を少しずつ押し戻していくのではないかという団長さまの予想は、是非そうであってほしいと思います。それぞれの選手がそれぞれの武器を持って、この小さな白線の枠の中でガチンコで戦って、私達に熱く心震える瞬間を数多く見せてほしい。
    来年の楽天オープンは、錦織選手やワウリンカ選手、モンフィス選手にシャポバロフ選手(!)等の今回欠場した選手達やキリオス選手やデルポトロ選手にも是非戻って来てもらって、競争率はかなり高そうですが会場で観戦することができたら嬉しいです。

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  • 団長、決勝行かれたんですね
    マナリノ選手強いなあと、テレビでインパクト部分を食い入るように見ていたので(見るところ違った?)、分析とても興味深く読ませてもらいました

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  • 団長さま
    楽天OP決勝レビュー記事有難うございます。
    何だかんだ言っても500大会。蓋を開ければ史上最高に迫る勢いの観客動員数。非常に素晴らしい大会ではなったのではと思います。
    決勝戦については、団長さま始め沢山の方々のコメントでもう出尽くした感がありますので、2選手について感じていることを。

    マナーの悪いマナリノ選手。
    ええ、私も団長さま同様、いい選手でいい方だと思っています。ただ、あの握手拒否のシーンがどうも印象が強く鮮明に記憶に残っており、心のどこかで全面的には好きになれない自分がいます。私は執念深いのかも(苦笑)

    見事優勝のゴファン選手。
    彼の怪我明け2週連続優勝は、きっと錦織選手にもいい刺激を与えたことでしょうね。何かのヒントも掴んだはず。
    今週ゴファン選手は、母国アントワープ250に出場。幸いにして錦織選手もクライシュテルズ・アカデミーでリハビリ中。2人で談笑する機会があればいいな。でもアカデミーがアントワープにあるとは限らないか(笑) ブリュッセルかも知れないし。

      引用  返信

  • 団長さん、楽天決勝のレビューありがとうございます。
    マナリノ選手はよく拾うし崩れそうで崩れない。ゴファン選手が勝つにしても、もう少し縺れる試合を予想していたので意外な内容でした。
    試合中マナリノ選手がお尻かどこか痛そうにしていたので、どこか痛めていて一方的な感じになったのかなと思っていました。
    実はゴファン選手が弱点を見抜いて、そこを攻めていたという詳しい分析に納得いたしました。ゴファン選手も団長さんも流石です。私はもう少しでマナリノ選手の『お尻痛い作戦』に騙されるところでした。危ない危ない・・・。(笑)
    それとマナリノ選手の打ち方が苦しそうに見える謎、苦しそうなのに深い球を返せる謎も、ぶれない体幹とボディバランス、コンパクトなスイングによるものだと解明していただきスッキリ。そしてこれが板こんにゃくが曲がるように見えてしまう原因かと思ったりして・・・。(マナリノ選手とファンの皆さんごめんなさい)

    最後に、今回はゴファン選手に優勝して欲しかったので嬉しかったです。

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。