完全復活なんてもんじゃないフェデラーの大優勝(2008USオープン)

錦織圭が大活躍した2008年USオープンはフェデラーの5連覇で幕を閉じました。

2008 US Open
男子シングルス決勝
R. Federer def. A. Marray, 6-2,7-5,6-2

巷では「フェデラー完全復活!」という評判でもちきりのようですが、私はそれ以上だと思いました。

その昔、2003年にウィンブルドンを初優勝し、マスターズカップも制覇しても私はフェデラー時代の到来には半信半疑でした。
(もっとも、私は選手の実力の変化を自分の中で認定するのが遅い傾向がありますが。)

その私も2004年の全豪でのフェデラーの衝撃的なプレーにはフェデラーの凄さを認めざるを得ませんでした。

一発で決まるフォア。何気なく返すライジングのバックハンドがコート深くにつきささる。そして七色のサーブ。

そしてその異次元のプレーがいつしかフェデラーのテニスのスタンダードになりました。

その後4年間続いた絶対王政に陰りが見え始めた今年、ナダルとの大勝負も破れ、中堅どころにも負け続けたフェデラー。
それでも私はフェデラーが衰えたとは信じられませんでしたが、オリンピックでブレイクに負けたときはさすがに心配になりました。

それがこの短期間で、この大舞台でこの凄まじいプレーですから、「やっぱりフェデラー」といえども驚きを隠せません。

かつての決定力を取り戻したと同時に、プレーの質が「柔」から「剛」寄りに変化したと感じました。

強打に次ぐ強打。しかも打つタイミングが異常に早い。
破裂するような打球音が大きなすり鉢の中でこだまする。
多彩な球種を操り優雅に軽やかにプレーする従来のフェデラーのイメージとは少々趣の違った攻撃でした。

タイミングを早めたらフルスイングでの強打は必ずしも必要ないはずですが、フェデラーはこれでもかとばかりに強打し続けました。
しかもそれがことごとく入りました。

今思えば全仏も、ウィンブルドンもこのようなテニスがしたかったのではないかと思いました。
完璧なコートカバリングを誇るナダルを打ち破るためには、この「早いタイミング+強打」が必要だとフェデラーは考えたに違いありません。

全仏では思うように打たせてもらえず、ウィンブルドンでは強打を返され、フェデラーの新しいテニスへの挑戦は実を結びませんでした。

それが本日、対戦相手はマレーでしたが、全米の決勝という舞台で完成の日を迎えた、そんな印象を持ちました。

第1セットを取ったときに早くも雄たけびをあげたフェデラーには何か今大会に賭けるものがあったようです。
挑戦者に戻った元王者は、タイトルを守るのではなく自分からもぎ取りました。

マレーも持ち味を発揮したと思います。
あまりのフェデラーの激しい攻撃に耐え切れず、「今日のマレーは良くなかった」という声も聞かれましたが、私はいいプレーをしたと思いました。

特に第2セット、0-2になっても自分を見失わず、stay in the matchした姿には感心しました。
マレーには自分のやるべきことが見えているように思えました。
スライスを使ったり、意図的に緩めのボールを深く送ったり、とにかくフェデラーに気持ち良く打たせないようにする工夫をしていました。

サーブの確率が悪かったようですが、フェデラーがリターンから激しく攻撃してくるため、1stサーブを強打せざるを得ない状況に追い込まれていたことが原因だと思います。

我慢のプレーで5-5までもつれさせたマレーも見事でしたが、6-5からすさまじいまでの集中力で一気に第12ゲームをブレイクしたフェデラーはその上を行っていました。

第3セットはさすがにマレーも我慢しきれなくなってストロークが甘く入り、フェデラーの軍門に下ったのでした。

「次世代のNo.1候補」と言われながら怪我もあって実績ではジョコビッチにやや水を空けられたマレー。
私も「うまいけど、ディフェンシブすぎる選手。No.1にはなれそうにない」という評価をしていました。

フェデラーも今年のドバイでマレーに負けたときは、マレーのディフェンシブなテニスに疑問を投げかけていました。
(参考:Masters of the Gameさんの記事

しかし今大会のマレーは、ディフェンスの強さを生かしつつも攻撃力がアップし、非常に良いテニスをしていました。
でないと準決勝のナダル戦、ナダルに疲れが見えたとは言え勝つことはできなかったと思います。

この進化したスタイルを続けられれば3強時代から4強時代に移行することも可能だと思います。

フェデラーの優勝で11月のマスターズカップが大変楽しみになってきました。
ナダルも体力を回復させてタイトルを狙ってくるでしょう。

そして蘇ったフェデラーと錦織圭の対戦を10月のバーゼルでぜひ見たいですね!!

10 件のコメント

  • 最近マイブームになっている自己ツッコミです。

    リンク先の「フェデラーがまだ終わっていない理由」という記事では、

    ちょうど去年のマスターズカップがそうでした。
    前の2大会でナルバンディアンに連敗し、マスターズC緒戦でゴンザレスに敗退。フェデラー危うし?の声をものともせず最後はいつものフェデラーでした。

    同じようなことが起こっても私は全然驚きません。

    と書いておきながら、今日は思いっきり驚いてるやん>俺wwwww

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  • 完全復活どんなもんじゃ~い! に見えた(亀田家か!)
    とはいえ改めて団長のテクニカルリポートには感心させられます。
    文章の構成力、展開、読みやすさ・・・まさにテニスブログ界のフェデラーといっても過言ではないだろう(褒めすぎか)

    バーゼルでフェデラー対錦織!見たい見たい!激しく見たい!
     (;´Д`)ハァハァ 

    ところで錦織最新ランキング81位の記事
    マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

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  • フェデラー優勝、おめでとう。
    ナダルに勝っての優勝を見たかった…でも準決勝も決勝も強かったです。
    先のウィンブルドンのガスケ戦でマレーのプレーにすっかり魅了されてしまったのですが、今日のフェデラーには脱帽でした。
    「プレーの質が「柔」から「剛」寄りに変化した」
    …なるほど、バックハンドスライスからトップスピン多用に移行したのもその一つですね。
    錦織選手がデルポトロに負けたのは一週間前。
    そのデルポトロに勝ったマレーに圧勝するフェデラーって、どのぐらい強いのでしょうか。
    今のフェデラーと錦織の試合、本当に観てみたい!
    GS終了、今度はGAORAに入りたくなってきました。
    うーむ。

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  • netdashさん、お見事な分析です。私は写真をとりながらの観戦でしたし、フェデラーの表情が実践ではみえないので、このあたりはTV観戦のほうが、有利かもと思いました。
    ある雑誌に私のサイトが載っている情報などさすが速いですね。驚きました。私自身まだ読んでいないので、内容が少し心配ですが、取り急ぎお礼まで。

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  • さすが冷静な分析ですね。団長。
    第三セットは、04年のヒューとの決勝を思い出しましたよ。
    圧巻でしたね。
    あと最後、主審と握手した後、コートベンチでカメラに向けて
    おちゃらけた仕草なんかもよかった。

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  • マレーは、ナダル戦で見せた時折ネットへ出る攻撃的な
    テニスが影をひそめましたね。
    それほど、出だしのフェデラーに圧倒されてしまったのでしょうか。
    接戦を期待していたので、ちょっと残念でした。

    今回の決勝戦。
    みなさんの言われる素晴らしいフェデラー
    というのが遅ればせながらやっとわかりました。

    ネットプレーのうまさといったら!!
    まさに芸術品ですね。
    もちろん、どのショット、どのプレーを見てもうまい!!
    ネットへ出る判断とそのすばやさもあざやか!

    フェデラーは、
    テニスの神様に見初められた選手
    なのだと感じました。

    だってボールが
    『キミの言うことなら何でも聞くよ。』
    といわんばかりに素直に飛んでいく!
    他の選手の無理やり言うことを聞かせたような
    弾道とは違うんですもん。

    感情を表に表すフェデラー、好きです。
    これからもそういう姿、見たいです。

    まるでダンスをするようにテニスをする。
    とどこかに書いてありましたが、
    まさに
    『蝶のように舞い、蜂のように刺す』
    ですね。
    ここぞといったポイントにネットに出て攻撃に転ずる
    姿は雌豹のようでした。

    最後に。
    柳爺、褒め殺し連発!
    解説者じゃなくて単なるファンになってました^^;

      引用  返信

  • 追伸。


    そういう私も柳爺に負けてはいませんね^^
    いえいえでも本当にそう思ったんです。

      引用  返信

  • 詳しい解説、分かりやすいです!
    この解説だけで、十分観た気になります。
    有り難うございます。

    ネットニュースで試合の画像を観たのですが、フェデラーが険しい表情で獣のようだったので、驚いていました。プレーもすごかったんですね。

    完全復活、嬉しいです。

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  • 実はフェデオタの私にとっても意外なほどの大勝利でした。もう嬉しくって…(泣)。

    ナダル戦で見せたマレーの高い打点からのバックハンド・クロス、あれが怖いと思っていたのですが、ほとんど見られませんでした。たぶんストローク戦でフェデラーが押し切っちゃったということなんだろうと思います。

    インタビューで、「単核症がこの夏になってやっと完全に治ったんだと思う?」と聞かれて、「うん、そうかもね。これまで体が思ったように動いてないと感じることがあった」と述べていましたが、準決勝、決勝でのプレーを見ると、本当に動きが素晴らしくて…。だから今年よく見られたバックのフレームショットが激減したのかもしれません。

    僕もできればナダルに勝って優勝して欲しいと思っていましたが、準決勝では何故かマレーを応援してました。やっぱナダルが怖いのかなあ。ここでまたナダルに負けたりしたら、雰囲気悪いし…。

    とにかく、フェデラー優勝おめでとう&ばんざーい!(ナダル・ファン&マレー・ファンの方、ごめん)

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。