来年からの新ランキングシステムについて分かった5つのこと

コメント欄で質問があったので、来年から始まる新しいランキングシステムについて現時点で分かっていることをまとめておきます。

大きな変化は以下の通りです。
(注釈:MS・・・マスターズシリーズ、ISG・・・インターナショナルシリーズ・ゴールド、IS・・・インターナショナルシリーズ)

  1. カテゴリーの名称変更と大会の入れ替え。
  2. 獲得するATPポイントは最大で2倍に増えるが、中には減る場合も。
  3. ATP 500(旧ISG)には4つ以上出場しなければならない。
  4. デビスカップ(デ杯)にもポイントが付く。
  5. 2008年シーズンのポイントは一律2倍される。

以下、詳しく解説します。

1.カテゴリの変更と大会の入れ替え

2008年までは大会のカテゴリは以下の通りでした。

グランドスラム(GS):4大会・・・全豪、全仏、ウィンブルドン、USオープン
マスターズカップ(MC):1大会・・・年度末に行われるランキング上位8人によるブロック総当り&決勝トーナメント。
マスターズシリーズ(MS):9大会・・・北米4欧州5、ハード4クレー3インドア2
インターナショナルシリーズ・ゴールド(ISG):9大会・・・AIGオープン含む
インターナショナルシリーズ(IS)

これが2009年には以下のようになります。
(ソース:ATP Calendar 2008及びATP Calendar 2009

グランドスラム(GS):4大会・・・変更なし
ATP Finals:1大会・・・名称変更
Masters 1000:9大会・・・ハンブルクが降格、上海が新設。モンテカルロはなんとか残留。
ATP 500:10大会
ATP 250

ATP 500については、従来のISGと比べてワシントン、北京、バーゼル、バレンシアが昇格。AIGもなんとか残留しました。
一方でシュトゥッツガルト、ウィーンがATP 250に降格。Kitzbuhelは大会が消滅したか?
ハンブルクは暫定的にここに入る予定(決定すれば11大会目)。

つまり

MC → ATP Finals
MS → Masters 1000
ISG → ATP 500
IS → ATP 250

となるわけです。

2.獲得するATPポイントは最大で2倍に増えるが、中には減る場合も

これだけだと大会に若干の入れ替えがあるものの、名称変更だけのように見えますが、獲得できるATPポイントには結構な変化があります。

以下、比べてみます。
矢印の左側が旧カテゴリー、右側が新カテゴリーでの獲得ポイントです。
(新システムのソース:ATP公式サイトのSHARK BITESコーナー。
旧システムのソース:Wikipedia Template:ATP Entry Ranking Points Distribution

Masters 1000大会(旧MS)
優勝 500 → 1000 (2倍)
準優勝 350 → 600 (1.71倍)
ベスト4 225 → 360 (1.6倍)
ベスト8 125 → 180 (1.44倍)

ATP 500大会(旧ISG)
優勝 300/250 → 500 (1.67倍/2倍)
準優勝 210/175 → 300 (1.43倍/1.71倍)
ベスト4 135/110 → 180 (1.33倍/1.64倍)
ベスト8 75/60 → 90 (1.2/1.5倍)

ATP 250大会(旧IS)
優勝 250/225/175 → 250
準優勝 175/155/140/120 → 150
ベスト4 110/100/90/75 → 90
ベスト8 60/55/50/40 → 45

ちょっと分かりにくいかもしれませんが、上位ラウンドに進出すればするほど、新システム/旧システムのポイント比が大きくなっていることがお分かりいただけると思います。

また、ATP 500以上のカテゴリでは獲得ポイントは基本的に増えていますが、ATP 250大会の一部では減ってしまうことがあります

以上のことから、新システムでは

・上位ラウンドに進出することができる爆発力のある選手
・大きな大会で力を発揮する選手

が優遇される、ということが言えます(あくまで旧システムと比較して相対的に)。

今まで同じポイント数を稼いでいた以下のような2選手がいたとします。

選手A:優勝をするような爆発力はないが、取りこぼしが少なくコンスタントに1,2回戦を勝つ。
選手B:調子のいいときには優勝する力があるが、調子が悪いと簡単に緒戦で負けることが多い。

新システムでは、選手Aより選手Bの方をこれからは優遇する、ということのようです。

どっちかというと錦織は爆発力のあるBタイプですかね、今のところ。
まだデータが少ないので決め付けることはできませんが。

新システムと旧システム、どっちが公平なのかはなかなかここで結論を出すのは難しいですね。考え方の問題ですから。

ただ、大きな大会を優遇するということは、上位選手と下位選手の格差を広げることになりますから、一部の選手から不満の声が上がりそうです。

特にチャレンジャーで稼いでいる選手からは。

今までは同じカテゴリーでも賞金総額の違いによって獲得できるポイントに差がありました。
それが今度は賞金に関係なく、同じカテゴリーなら同じだけのポイントを得ることになります。

分かりやすくはなりますが、これもどういった影響を及ぼすでしょうか。

今年に賞金の高い大会に出場していたばっかりに、来年ポイントが伸びないなんて悲劇も起きそうです。

なお、「Masters 1000」などの数字の部分は優勝者の獲得ATPポイントを示しています。

ATP 500(旧ISG)には4つ以上出場しなければならない

タイトルの通りですが、これは「トップ選手」に課せられた義務のようです。

今までも、「トップ選手」にはGS4大会、MS9大会への出場義務が課せられており、欠場したらその大会は0ポイント扱いをされていましたが、それが旧ISG相当のATP 500にまで拡大されたということらしいです。

これにより「トップ選手」はGS4大会、Masters 1000 8大会、ATP 500 4大会の計16大会への出場義務が課せられることになります。

Masters 1000が9大会じゃなくて8大会なのは、モンテカルロがこの出場義務の対象大会ではないからです。
その理由はここで書くと長くなるのでまた別の機会に。

なお、出場義務のあるATP 500大会4つは基本的に自由に選んでいいですが、そのうち1つはUSオープン以降である必要があります。

USオープン以降のATP 500大会とは

AIGオープン、北京、バレンシア、バーゼルの4つです。

いつもUSオープン後はトップ選手がキャンセルしやすい時期ですから、この制度は日本のテニスファンとしては歓迎したいですね。選手は大変だとは思いますが・・・。

トップ選手様、なにとぞ東京に来てください!!

そういえば来年はAIGオープンでなくなる可能性が高いのでした・・・。まあとりあえずAIGと呼んでおきます。

以上のソースはATP Announces 500 Series Tournaments

4.デ杯のポイントも加算されるようになる

デ杯は今まで、ツアーを重視する選手の間では敬遠されてきましたから、これは大変良いことだと思われます。

「デ杯は国の名誉を賭けて行うものであり、目の前にニンジンをぶら下げるようなやり方は・・・」と言う声も聞こえてきそうですが、個人的には歓迎したいと思います。

ただしワールドグループとプレーオフが対象(詳細は後述)ということで、錦織には当面、有利に働かなそうなのが残念です。

来年、日本がプレーオフに進出する可能性はありますが、後述するように得られるポイントがわずかです。

以下、デ杯に関する部分の骨子です。

  • 対象は直近52週以内のワールドグループ4開催と、プレーオフのみ。
  • 1勝ごとに以下のポイントを獲得する。
    • プレーオフ:1勝目5p、2勝目10p
    • ワールドグループ1回戦:1勝ごとに40p (2勝で80p)
    • ワールドグループ2回戦:1勝ごとに60p (2勝で120p)
    • ワールドグループ準決勝:1勝ごとに70p (2勝で140p)
    • ワールドグループ決勝:1勝ごとに75p (2勝で150p)
    • ボーナス:優勝チームの選手で7勝した者に75p、8勝した者(つまりフル出場で全勝)に125p
  • ワールドグループ1回戦では負けても10ポイント付く。
  • 途中のラウンドから出場しても、得られるポイントは1回戦相当
    • 例えば2回戦から出場して勝利しても、60pではなく40pが付く。

つまり最高で80+120+140+150+125=625ポイントが獲得可能です。

優勝しないといけませんけど。

これを多いと見るか少ないと見るか。

各国の一線級との対戦、5セットマッチ、デ杯のプレッシャー、アウェイの場合は不利な条件、最大で8試合、などを考えるともう少し上げてもいいかな?とも思いますが、負けたら終わりのトーナメントとは違いますからこのくらいが妥当かもしれませんね。

ソース:ITF and ATP announce dates and ranking points

4.2008年シーズンのポイントは一律2倍される

上でも出てきた「SHARK BITES」コーナーにこの既述がありました。

このコラムのSharkoさんはATPの膨大なデータの中から面白い記録をピックアップして分かりやすく解説してくれます。

以下引用。

At the end of the 2008 season, the points a player has earned in his ranking will be doubled. Starting in 2009, the new ranking structure will be in place with new points structure and new ranking formula.

まだ明らかになってないこと

以上が私が数日間かけて調べたことですが、どうやらまだ新システムの全貌は明らかにされていないようです。

現在のところ、以下のことが分かっていません。

(1)ATP 250以上の大会の準々決勝より下のラウンドのポイントはどうなるか?

なんとなく冷遇されそう・・・。

(2)チャレンジャーやフューチャーズのポイントはどうなるか?

これも冷遇されるのでは・・・。

(3)ATP Finalsのポイントはどうなるか?

ここは優遇されそう・・・。

(4)出場義務のある「トップ選手」ってどこまで?

現行では「トップ50」だったような気がしますが、定かではありません。
例えばある大会の本戦カットオフが55位だったとして、54位以上の選手がエントリーしてなかったらその選手は0ポイントになってしまうとかそういうことなのでしょうか?

(5)今年までの「ベスト18システム」は維持されるのか?

現システムでは、

GS 4大会+MS 9大会+ISG以下で成績の良かった5大会

の計18大会のポイントでランキングが決まっていましたが、これは維持されるのでしょうか?

トップ選手は来年からISG相当のATP 500にも4大会出なければなりませんから、

GS 4大会+MS 8大会+ATP 500 4大会=計16大会

に出場する義務が生じます。これはきつい。

ATP 500は大会を選べるとはいえ、ベスト18システムが継続されるなら、本当の意味で自由に選べるのは2大会のみ。

それ以上は、出場してもランキングポイントに加算されない可能性があります。

以上です。疲れました・・・。

16 件のコメント

  • だんちょ、お疲れ様です。
    出場義務が厳しくなればどんなに優遇されがちな上位選手にも
    不満は出てくるでしょう。

    うるさく面倒臭いことを言われてそのままフェードアウト・・・。
    ボルグが引退した時のコトを思い出しました。

      引用  返信

  • おはです。団長ありがとうゴザイマス。英語で説明されても・・・、だったので。

    ATP500とATP250のポイントが統一されたのはわかりやすくなっていいことかなあって感じはするんですけど、義務が増えると不満も増えますからね。
    (4)、(5)は気になりますね。

    圭君には良い方向になってくれることを願ってます。

      引用  返信

  • とてもわかりやすかったです。
    こんなにたくさん、よく調べられますねぇ(感心)。

      引用  返信

  • お疲れ様です♪
    個人的にはデ杯のポイントも加算が嬉しいです。
    団体戦の盛り上がりが大好きなので^^

      引用  返信

  • 丁寧な説明ありがとうございました。
    北京とAIGが同じ週なので選手が分散されますね。
    トップ選手は北京よりも東京に来てー。
    ちなみにGSのポイントはどうなるのでしょうか。
    52週ランキングも今年のポイントと2009年度のポイントを単純に足すのでしょうか(年末になれば影響少ないですがウインブルドンあたりでは2008年度後半のポイントより2009年度前半のポイントの方に比重がかかりますがどうなのでしょうか)

      引用  返信

  • なるほど、大変良く分かりました。せっかく馴染んだ名称が変わるのは残念ですが、優勝したらいくつポイントが入るのか一目瞭然なのはいいですねw

    特にMasters 1000 や ATP 500 等はQF以降のポイントが格段に違うので気合いも入るのかと思いきや上位選手の出場義務の絡みもありなかなか大変そうですね。
    そしてチャレンジャーやフューチャーズを主戦場にしている選手に対してはポイントが厳しくなるような気もするし…うーむ、これは来年一年終わってみると違いがはっきり分かりそうですね。

    ちなみにハンブルクが降格したのは大会の開催日程の時期に問題があったのかな、関係者は悔しいでしょうね

      引用  返信

  • ATP1000やグランドスラムでどれだけ勝てるかが肝になりそうですね。怪物どもをたくさん倒さないと!!

      引用  返信

  • ポイント計算って難しいですね。
    この記事の1/3位まで
    頑張ってついていきましたが、
    あとはほとんど理解していません。

    おおまかなことはわかりました。
    おいおい読み返して
    理解を深めたいとおもいます。

    テニスランキングも
    格差社会になるのでしょうか。

    とにかく錦織選手には
    今年のランキングよりまた
    上がって欲しいなとおもいます。
    トップ10の背中が見えるくらいに。

      引用  返信

  • たいへんお疲れ様でした~~~(平伏しております)
    調べていただき、ありがとうございました。掲示板の方も見ました。英語が苦手で解らなかった部分も理解できました。
    ランキングが低い選手がポイント稼ぐのが大変そうだと思っていたら、トップ選手にも色々ありそうなんですね。出場義務とか、デ杯のポイント有る無しとか…。
    あらためて団長さんの仕事の早さにビックリでしたーww

      引用  返信

  • ツアー改革。そりゃ、賛否両論ありますよね。
    選手としては、なるべくポイント稼げる大会に出たいし。
    かつ、休みも十分に取りたいし。

    いつだったか、出場大会数が多ければ多いほど稼げる規約から、
    出場した内のベストリザルト残した、17大会だけを対象にする。
    という変更があった年がありましたが、それでも、賛否ありましたしね。

    そして、記事の「Kitzbuhel」という地名に、テニスとは関係なくときめいてしまいました。
    キッツビューエルは、スキーのW Cupでの名門中の名門です。
    私、実はスキーもやっていたんですが、実際に滑った時は感無量でした。
    テニス選手で言えば、ウインブルドンのセンターコートに立つぐらいの、重みがあります。

    あとは、フットボールの聖地「ウェンブリー」とか。

    最後に預言!
    来年は、錦織圭はウインブルドンのセンターコートに立つ!!

    信じる者は、救われる!

      引用  返信

  • とっても詳しい解説ありがとうございます。
    まさに、格差テニス!!こつこつとポイントを重ねていく選手には
    お気の毒な話ですね。。。

      引用  返信

  • 難しいけれど、
    来シーズンかけて実感とともに理解していきたいと思います。
    どのスポーツでも一緒だけれど、評価システムが変わるというのは、
    競技の内容(?)選択にも影響する大きな問題ですよね…
    錦織選手にとってこの変更が吉と出ることをほんとうに祈ります
    borisさん、
    “最後に預言!
    来年は、錦織圭はウインブルドンのセンターコートに立つ!!”
    胸ときめくおコトバありがとうございます。
    ドキドキしました! 2009シーズンが待ち遠しい〜

      引用  返信

  • みなさまコメントへの返信が滞ってすいません。

    >azusaさん

     今回の改正で、錦織はあまり不利を受けないような気がします。
     改正前に、チャレンジャーレベルを卒業して本当によかったなあと思いました。
     まあ,不振になったり長期戦線離脱したりすることがあればチャレンジャーに戻ることもありえる厳しい世界なので、油断は禁物ではあります。

    >pinkyさん

    格差テニスw
    思想の問題なので良し悪しは判断しづらいのですが、会ランクの選手も結果を出せば上のトーナメントに出れる道筋はきちんと残しておいてほしいと思いますね。

    >zoeriさん

    はじめまして。
    これは貴重な情報です。なるほど。チャレンジャーめぐりの選手は厳しいですね。
    チャレンジャーで稼いで70位とか、そういう選手には苦しくなるということですね。

    >borisさん

    文体が変わったw?
    松岡以来のセンターコート、期待したいですね。
    1回戦でナダルと当たれば簡単に実現しますw

    >うめぞーさん

    いえいえ、いいお題ありがとうございました。
    引き続きフォローします。

    >マックウィンさん

    長文すぎました。ゆっくり読んでください。

    >gomisawaさん

    本当に怪物どもの中にいますよね。圭君。
    でも圭君自身が怪物ですから・・・w

    >osconさん

    GSの情報載せるの忘れていました。すいません。
    優勝はやはり2倍の2000p。
    準優勝は700から1200に変わるはず。ここでも格差が広がります。

      引用  返信

  • zoeriさんに教えていただいたリンク先がなぜか消えています。
    配点表だけはコピーしておきましたが・・・。

      引用  返信

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    ABOUTこの記事をかいた人

     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。