【レビュー加筆済み】プレッシャーをエネルギーに変えたバブリンカに拍手!新たな経験を得た錦織の今後に期待(2015全豪オープン準々決勝)

2015 Australian Open (Grand Slam)
Quarterfinal
Stan Wawrinka[4] def. Kei Nishikori[5], 6-3,6-4,7-6(6)

試合前にプレッシャーが掛かっていたのはバブリンカの方だったと思っています。
ディフェンディングチャンピオンの重圧に、昨年の全米での敗戦。そして最近の錦織の勢い。
そのプレッシャーを上手くエネルギーに変換し、これ以上ない気迫で試合に臨んだバブリンカを賞賛したいと思います。
絶対に負けたくないという気持ちが伝わってきました。

錦織については体調など、諸事情があったと思いますが、今日はとにかく試合の入り方に失敗してしまいました。
2011年ごろまではスロースターターの傾向が顕著で、「逆転の錦織」という称号まで付いてしまいました。
全体的な実力の底上げの中でその欠点も徐々に改善され、最近では試合の入りに失敗することも少なくなって来てはいましたが、本質的には決してスタートダッシュをするタイプではなく、時々このような試合展開になってしまうこともあるでしょう。

スタートの失敗があっても試合の中で相手のわずかな隙を見逃さず、一気に試合の流れを引き寄せることができるのが錦織の凄いところですが、今日のバブリンカはさすが世界4位、そんな隙を見せてはくれませんでした。

警戒していたバックハンドに加え、バブリンカはサーブが絶好調で第3セット終盤、第11ゲームからタイブレークにかけてなんと5本連続のサービスエース。錦織に1本のミスも許されない展開になってしまったことは錦織にとって厳しかったと思います。

錦織は欲しいポイントでのストロークのミスが多く、持ち味を出す前に自分との戦いになってしまいました。
バックハンドのクロス中心のラリーがバブリンカのバックハンドの餌食となってしまい、「なぜバックを狙うんだ」と思われた方も多いと思いますが、バックを狙っているというよりも今日はストレートの精度に自信がなかったのではないかと思われます。

ラリーの基本はクロスで、ストレートに打つ場合はそれで仕留めるか、優位に立てるだけの質のショットを打つ必要があります。
さもないと自陣に広いオープンスペースが出来てしまい、あっという間に逆襲されてしまいます。
元々錦織は余裕が無い時はバックハンドのクロスに頼る傾向がありますが、本日もミスが許されない展開の中、ラリーを優勢にすることができるもののハイリスクなストレートよりも、ローリスクなクロスを中心に組み立てたのだと思います。

フェレール戦で見せた外へ逃げていくストレートはあまり見られませんでした。
読まれやすいクロスでも、攻撃されないだけの深さ、速さ、あるいは角度があれば良かったのですが、バックハンド同士の勝負では世界最高峰のバックハンドを持つバブリンカに分があります。一球だけならともかく、何球も続けて攻撃されないショットを続けることは難しい感じでしたので、やはり回り込みのフォアやバックのダウンザラインを早めに打ちたかったですね。

第3セットはサーブアンドボレーを多用し、流れを変えようとしました。
これは見方によっては「ストローク勝負を避けた」とも取れる作戦ですが、ちゃんと機能していましたので良かったと思います。
バブリンカはスライスのリターンを多用していましたし、2ndセットまでと違ったリズムを出すことには成功していました。

それでもバブリンカは自分のサービスゲームで全く崩れませんでしたので、タイブレ勝負になってしまったこと、そのタイブレークを落としてしまったことはある程度しかたないと思います。

それよりも最初の2セット、特に第2セットが問題でしょう。
第1セットの入りが悪かったことももちろん問題ですが、第2セットを取ればそれも帳消しにできます。
テニスは3セットマッチでも5セットマッチでも第2セットが非常に大きな意味を持ちます。

第2セット4−5でダブルのブレイクポイントを迎え見せ場を作りましたが、ここを取れなかったことが非常に痛かった。
錦織は過去、このような場面を高い確率でもぎ取り、きわどい勝負をものにしてきましたが、今日はその勝負強さを発揮できなかったか、あるいはバブリンカが強かったのか、いずれにしても、100%取ることはできませんのでその前に、早め早めになんとかすることが今後含めて重要になってきます。

錦織は劣勢に立った時、表情、ジェスチャー、体の姿勢でそれを表してしまう癖があり、決して良いことではありませんが、勝負は常にあきらめていません。できれば劣勢でも堂々と、ポーカーフェイスでプレーして欲しいところではありますが、少しでもチャンスがあれば一気に形勢を逆転してやろうと狙っています。第3セットタイブレークで1−6から6−6まで持っていったところはそういう場面でした。

次の場面で打ったドロップショットが物議を醸しているようですが、正しい選択だったという意見と、打つべきではないという意見、両方の見方があっていいと思います(実際、ジャーナリストの間でも賛否両論のようです。ただしチャンは怒りそうな気がしますw)。

個人的にはあの場面では打つべきでなかったと思いますが、結果論とも言えます。決まっていたら「さすが錦織!」となるわけですから。
単に私のテニス感では、たとえ決まっていたとしてもあの場面では打つべきではない、です。普通に打っても高い確率でポイントが取れていましたから。

錦織自信は「選択は正しかった」とインタビューで言っているようですので、私のは単なる素人の戯言に過ぎません。
外から見たら危なっかしく見えても、本人の感覚として確固とした基準があるのだと思います。

ともあれ、本日錦織は負けました。大変悔しいです。
大変悔しいですが、昨年の4回戦から1つアップし、ポイントを上積みしました。
第5シードの重圧に耐えてのシードキープは立派です。
4回戦までの戦い方も、絶好調とは言えないですが勝負の持って行き方という意味でトップ選手らしい安定感のある戦いを見せました。
以前のような、一戦一戦が勝負で、勝ち上がったはいいが次の試合に余力が残っていない(あるいは故障)ということはなくなりました。

普通に第2週に残り、準々決勝でディフェンディングチャンピオンに負けたにも関わらず、残念で悔しい気がする。本人も満足していない。
これって、すごいことだと思うんです。

雲の上にいるようなスター選手は沢山いますが、そのうち優勝できる選手はたった一人です。ジョコビッチ、マレー、ベルディヒ、バブリンカのうち3人は必ず負けます。ナダル、フェデラーは既に負けました。
錦織もそんな敗者たちの1人になっただけですし、今年もおそらくまだ10回以上は負けるはずです。
それがテニス界ですし、全ての試合に勝つことは誰もできません。
結局は1年通じて活躍することが重要で、その中で何回か、大きな大会で大きな結果を出すこと。
それを昨年実行し、世界No.5まで来ました。
今年もそういった長い目で見て行きましょう。

アップダウンを繰り返しながら、節目節目で我々の想像以上の仕事を成し遂げてきた錦織です。
今年も錦鯉に歓喜をもたらしてくれることでしょう。

155 件のコメント

  • 私も日経の錦織特集を読みました。
    きちんと取材したいい記事でしたよ*\(^o^)/*

    でも、NHKの緊急放送とか今回のまさかの日経特集など始まると錦織は負けちゃう。
    考えすぎかな。。。と思う反面、いつも通りで行こうよと思ってしまいます(≧∇≦)

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  • 元気印さん この記事、すごくいいですね!
    スポーツ観戦の達人だなぁ。
    ライターさんとかでしょうか。

      引用  返信

  • 僕も元気印さんの紹介で初めて見ましたけど、面白い記事ですね。

    食わず嫌い王関係ネタ記事とか、お兄さん(愛ちゃん)関係ネタ記事も秀逸です。

      引用  返信

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。