錦織圭、6日間7試合を熱く戦い抜き、感動と記憶を残す(2021東京オリンピック準々決勝 vs. ジョコビッチ レビュー)

2021 Tokyo Olympic Games
Quarterfinal
Novak Djokovic def. Kei Nishikori, 6-2,6-0

流石に、これまでの連日の試合の疲れがありました。
加えてジョコビッチのプレーが完璧でした。
疲れているなりに錦織も良いプレーをしたのですが、良いラリーはできてもポイントが遠い。ポイントが取れてもゲームが遠いという感じでした。
スコアほどは内容は悪くありませんでした。

本当に素晴らしい大会となりましたね。
どの試合にも感嘆と感動がありました。
全てのショットのキレが良く、我々も錦織の大暴れを大いに楽しみましたね。
ただ過酷なコンディションで連日の試合は、わかっていた事とはいえ錦織の体力を奪い、今日の試合ではジョコビッチとの大きな差となって現れてしまいました。

ほんの少しだけ動きが遅い、ほんの少しだけ球が浅い、普段と比べたその僅かな差で、ジョコビッチのコントロールに余裕が出ていたように見えました。
ジョコビッチからはオープンコートがはっきり見えていたと思います。なので焦ることなく、確実にコーナーを突けたのだと思います。
打っている方は相手のポジションも見えていますので、錦織の状態が万全なら「返される」というイメージとなり、慎重にラリーを進めるモードに入っていたでしょうが、錦織のコートカバーが遅くなるとわかれば、無理をすることもなくなりますし錦織の次のショットも予測が容易になります。

そしていつものことながら、ジョコビッチのサーブのプレースメントが完璧です。
錦織のフォア側を狙ってきました。
グリップの厚さから遠い打点はどうしても力が入りにくくなりますので、デュースサイドのワイド、アドサイドのセンターを中心に攻めてきました。

ジョコビッチは本当に変幻自在です・・・。
何でも返すディフェンスのイメージがありますが、実はガンガン攻撃するスタイルでも、いつでも行けます。
攻撃スタイルでも行けるところを敢えて受けに回っているところがあるので、そりゃあ安定するよという感じです。
要するにそもそも実力が頭一つ抜けています。
相手が想定以上のプレーをしてきたときには奥の手としていろいろジョコビッチもやらなければならなくなりますが、確実に勝つためには受けに徹すればOK。
ストロークを中心にプレーする錦織のような選手に対しては、万全でしょう。
ビッグサーバーや、ミスはあるが一発のショットがある選手、あるいは逆に一発はないがしつこくしつこくプレーする選手、この辺りに可能性があります。
その辺りは錦織も承知はしているでしょうが、ジョコビッチとやるときはいつも積極的に行くか、じっくりいくかのバランスの設定に苦労しています。
試合前のプレビュー記事では「しつこく、じっくり」を推奨しましたが、そのためには体力も必要なので今日のコンディションでは、積極的に打って高確率で決めていくしか、状況を打破する手段はなかったかもしれません(非常に難しい)。

錦織が取ったプレイバランス(無理はしないながらも、チャンスを探って打っていく戦略)は決して間違っていなかったと思いますし、次の対戦には生きると思います。

今日の錦織は、コンディションが悪く粘れなかったものの、意識としてはラリーが単調にならないように工夫していたと思います(悪いなりに)。
それだけに100%の体調でやらせてあげたかったところです。
大会前、「ジョコビッチで1回戦と当たりたい!」とツイートしましたが、それはコンディション的に1回戦が最も勝利できる可能性があったからです。
実際、フレッシュな状態でルブレフを撃破しました。

そういう意味でQFでジョコビッチと当たってしまうドローはメダルを狙うという点では不運でしたが、ここまでの勝ち上がりは結果、内容ともに本当に素晴らしいものでした。

ルブレフ戦では上限値の高さが下がっていないことを示したという点が最も嬉しい勝利でした。
このレベルのプレーが1年を通じて出ないとトップ10は難しく、道のりはまだまだ長いものの、マスターズ1000やグランドスラムでベスト8、ベスト4に行くことができるレベルにあると再認識できました。

2回戦のギロン戦、3回戦のイバシュカ戦では勝負強さや修正力が引き続き健在であることを示してくれましたし、最後に突き放す強い勝ち方は、今年の中でも上位に位置する内容だったと思います。

技術的にはサーブの威力が上がり、リターンミスも減りました。フォアハンドがかなり復調し、3球目攻撃のミスが激減。サーブ、リターン、3球目と、ポイントを取る上で最も重要な最初の3球が全てレベルアップしました。

これまでは苦しいところの勝負強さ、修正力、精神力に頼っていたところがありました。そのような状況では安定して勝つことは難しく、心身の負担も大きいので1年を通じてその能力を発揮し続けるのは無理があったと思います。
ここで最初の3球で楽にポイントを稼ぐパターンを確立できたことは、今後の戦いにかなりの好影響を及ぼすと見ています。
私も自信を持って、「錦織はこれから、成績を上げていく」と言えるようになりました。
ATPポイントは1ポイントも入らない大会ですが、後に「オリンピックが上昇のきっかけだった」と言われる大会になることでしょう。

メダルは残せませんでしたが、感動と記憶を残してくれました。
それはメダル以上に価値があるものです。これまでの経緯を知っているテニスファンは、それを十分理解していることでしょう。

来週のワシントンは流石に無理をしないと思っていましたが、試合後のインタビューでは「来週試合があるので」と言っていたようですね。
それでも結果的には欠場となる可能性が高いと思っていますが、本人が「もうダメです」と言わないあたりに意欲と力強さを感じます。
いい感じなので、まだ試合をしたいのかもしれませんね。

この後はワシントン、トロント、シンシナティと続き、1週開いていよいよ全米オープン!
このどこかで今年まだ果たしてないベスト4が欲しいところです。
ただ、ノーシードなので初戦ジョコビッチもありえることを考えれば、早めに32位に戻ってシードを確実なものにして欲しいところ。
9月にATP250の試合がたくさんあるので、どこかの大会に優勝を狙って出場してくれないかな。

今年はもう失効点もほとんどありません。
反撃態勢は整いました。
超迷惑ノーシード、錦織圭の戦いに今後も注目してください。

59 件のコメント

  • 男子シングルス、準決勝以降の波乱に驚かされました。
    後になってジョコビッチの状況を知るにつれ、錦織戦の見方が変わってきました。「はあ、ベーグルくらったかあ。6日間で7試合も戦ったんだもんなあ。身体はきついに決まってるよなあ。しゃあない」と完敗を受け入れていたのに。皆さんのコメントを読んでジョコ戦を見直してみました。ジョコサーブの1ゲーム目は錦織がしっかりラリーできて30-30スタート。結局キープされましたが、まずあそこでジョコは気を引き締めたな。そして錦織の1ゲーム目絶対ブレイクする意識が強かったと思います。あそこ、ほんとこらえてほしかったけど、ジョコの思惑通りになってしまいました。2セット目も同様。ですからジョコは思い通りのペースだったはず。他の相手の選手同様、目途がついたところで少しペースを落とせばよかったのに。錦織は気持ちはかなり萎えてきていたけど、いいショットも単発的には打っていて油断できなかったんですかね?かなりむきになって錦織のナイスショットをスーパーショットで返して見せました。なんだろうな?イブァシュカ戦でとった錦織のベーグルセットも、見ていた私たちには楽勝とは映らず、ゲームごとのホントきわどいところですべて錦織が取れた結果でした。まあ、ジョコの場合そこまできわどい場面があったわけではないし、結局ストレートで勝利できる算段だったでしょうけど、あそこまでむきになってポイントを重ねなくてもよかったのに・・・と、その後の経緯を見て思ってしまいました。単に錦織びいきの想像でしかないようにも思うけど、下団さんのピークのコメントを読むとまんざら外れていないようにも思えて、ジョコビッチはケガのことも含め、不運でした。それだけ金メダルを狙ってたということでしょうね。
    一方錦織は完敗!何もできなかったと、試合直後はがっくりしたかもしれませんが、悔やむことは大してなかったと思うし、さっさとワシントンへ出発。割り切りは早いと思いました。元気そうですしね。ワシントンで大して疲れを見せないプレーが出来たら、それだけ錦織の身体が強くなったということで、そういう意味でもワシントンは試金石ですね。

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  • ワシントンのOOP出ましたね。
    錦織選手は現地時間8/2(月)スタジアムの第3試合午後7時以降。日本時間では翌火曜日午前8時以降ってことでしょうか?

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  • 東京での激闘から1週間も経たないうちに、ワシントンは早くも初日から組まれちゃいましたか。シードなら1試合少なくて良かったのに、まあこればかりは仕方ないか。あくまでも本番は全米、ただその前にワシントン〜シンシナティのどれか1つでベスト8や4くらいに行ける調子まで持ってってほしい。状況によってはウィンストンセーラムへの参戦も有りかと個人的には思いますが。

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  • 雪rinkoさんが豊富に上げてくださっている映像&画像のおかげで始まる前からもうわくわくする。本当にありがとうございます。
    練習も精力的にこなしていて、疲れの心配なんかないのかしら?と思ってしまう。
    チャンコーチもおられますね。特訓してますね。

    錦織君の1回戦は眠い時間帯ではないけど、多くの人にとって出勤時の微妙な時間帯。
    アメリカシーズンがやってきたなあと実感する。
    願わくば、あんまり天候理由で中断がありませんように。

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  • 今週も試合が観られる幸せ。 満喫したいですね。
    北米シリースで錦織選手の超迷惑シードぶり発揮に期待しています。
    シード選手を次々倒して勝ち進む勇姿が見られるといいな・・。

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  • おっしい!とりたかったあ!
    でも、今のところいい感じ🎵
    観客のみなさん、地元クエリーだけでなく
    錦織にも大きな拍手。嬉しいな。

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。