テニスは波乱の起こりにくいスポーツである

私がテニスを始めたころ、「テニスは波乱(まぐれ)が起こりにくい。実力通りに勝負が決まる。」と聞いたことがあります。

例えばプロ野球でもペナントレースを優勝するチームでも勝率は6割行かないことが多く、もっともらしい気がします。

トップ30に入るためには(1)」という記事で調べたように、「勝率6割」はテニスの世界ではランキング30位くらいにしか相当しません。

サッカーでも、一方的に攻め立てる「強い」チームがなかなか得点を入れることができず、試合終了間際にポロっと入った1点で「弱い」チームが勝利する、なんてこともあります。

対してテニスでは、どんなに凄いスーパーショットでも、弱気になって犯したダブルフォルトでも、全て同じ1ポイントです。勝つためには、その1ポイントを地道に積み重ねていかなければなりません。

しかしながらその一方で、グランドスラム大会のベスト8にシード選手がほとんどいない、という事態も過去に頻繁に起こってきました(特に全仏。もっとも、最近のGSでは上位陣は比較的安定しています。)。

果たしてテニスは波乱が起きやすいスポーツなのでしょうか?起きにくいスポーツなのでしょうか?今日は、簡単な確率の式を使って試算してみたいと思います。
(そこのあなた、「式」と聞いて逃げないでください。)

選手Aと選手Bが対戦するとします。選手Aがポイントを取る確率を p とします。
すると、選手Bがポイントを取る確率は 1-p となります。これを q としましょう。
(q=1-p です) 

いきなり数式が出ると読まれなくなる可能性が高まりますのでw、実際に数字を入れてみましょう。

p=60%、つまり選手Aの方が選手Bより強いと仮定します。従って q=40% となります。

このような二人が試合を行った時、選手Aがゲームを取る確率を計算してみましょう。

注)計算がかったるい人は、結論を先に読んでください!!

鼻血記法のように、選手Aがポイントを取ったら「○」 を、選手Bがポイントを取ったら「×」を付けることにします。
デュースが絡むと計算が複雑になるので、まずはデュースにならないパターンを考えます。 

(1)ラブゲームでゲームを取る

「○○○○」の1パターン

p^4=0.6×0.6×0.6×0.6=0.1296

(2)40-15からゲームを取る

×○○○○、○×○○○、○○×○○、○○○×○の4パターン

4×0.4×0.6×0.6×0.6×0.6=0.20736

(3)40-30からゲームを取る

××○○○○、×○×○○○、×○○×○○、×○○○×○
○××○○○、○×○×○○、○×○○×○、○○××○○
○○×○×○、○○○××○ の10パターン

10×0.4×0.4×0.6×0.6×0.6×0.6=0.20736

(1)~(3)を合わせて、「デュースにならずに選手Aがゲームを取る確率」は約0.544となります。

同様に、「デュースにならずに選手Bがゲームを取る確率」は約0.179となり、

「デュースになる確率」は1からこの2つの確率を引き算して、約0.277となります。 

【ここまでのまとめ】

A. デュースにならない場合
  1) 選手Aがゲームを取る確率 0.544
  2) 選手Bがゲームを取る確率 0.179
B. デュースになる確率 0.277

次にデュースになった後の確率を計算します。

ゲームを取るには2ポイント連続で取らないといけません。

Aが2ポイント連続で取る確率 0.6×0.6=0.36
Bが2ポイント連続で取る確率 0.4×0.4=0.16
再びデュースになる確率 1-0.36-0.16=0.48

ここまでで、各選手がゲームを取る確率は以下のようになっています。

【2回目のデュースまでのまとめ】
A. デュースにならない場合
  1) 選手Aがゲームを取る確率 0.544
  2) 選手Bがゲームを取る確率 0.179
B. デュース(1回目)になった後、 (確率 0.277)
  1) 選手Aがゲームを取る確率 0.277×0.36≒0.100
  2) 選手Bがゲームを取る確率 0.277×0.16≒0.044
  3) 再びデュースになる確率 0.277×0.48≒0.132

以下、同様な計算を無限大回繰り返すと(省略します)、最終的に、

選手Aがゲームを取る確率 0.736
選手Bがゲームを取る確率  0.264

となります。

なんと4ゲームに1回しか選手Bがゲームを取れない計算、平均的には6-2,6-2くらいで敗れてしまうわけです。

この計算をさらに進めて、試合に勝つ確率を計算してみます(途中は省略します)

選手Aが1セット取る確率 96.2%
選手Bが1セット取る確率 3.8%

選手Aが3セットマッチに勝つ確率 99.7%
選手Bが3セットマッチに勝つ確率 0.3%

選手Aが5セットマッチに勝つ確率 99.96%
選手Bが5セットマッチに勝つ確率 0.04%

どうでしょう・・・これだけの差がついてしまうのです。

40%のポイント獲得率しかないと、3セットマッチ以上で勝てるチャンスはほぼありません。

テニスは基本的に「波乱が起こりにくいスポーツ」と言ってよいでしょう。

しかし、それでも波乱は起こる

しかし実際には、ATPツアーを見ても波乱は少なくともこの計算以上の確率で起こっているように見えます。

これはどういった要因によるものでしょうか?

(1) 実力が接近しており、ポイント獲得率が50%付近で拮抗している。

(2) 試合展開や精神状態・体調の変化などにより、試合中にポイント獲得率が刻々と変化する。

このあたりだと推測します。

試合のスタッツ(統計)を見ると、獲得ポイント数の差が数ポイントしかないことが多いです。10ポイント以上離されていたら、大体は一方的な試合になっているはずです。

それなのに意外とスコアが離されていたり、極端な場合だとポイント数が少ない選手の方が勝ったりすることがあります。

これは(1)を裏付けていると言えるでしょう。

もっと言えば「勝負所の数ポイントを制した者が勝利する」ことの間接的な証左となりましょう。

また、今日行った計算は非常に単純化されたものですが、それでも結構複雑な計算を要求されます。

実際はサービスゲームを交代で行うわけですから、それだけでもポイント獲得率は変化しますし、テニスの場合、「各ポイントは独立事象ではない」、すなわち前のポイントの結果が次のポイントに対し、メンタル的、体力的に影響を及ぼしますからポイント獲得率は試合中にかなり変化するでしょう。

劣勢になった選手が開き直ってプレーし、ポイント獲得率が逆転する、なんてことも起こり得ます。

このあたりがテニスの面白いところこですね。

今日の計算から言えること

実は、ここが一番重要です。

今日の計算は単にマニアックなことをやって自己満足するためではないのです。

今日の計算から、「ポイント獲得率pが十分高ければ、まず負けない」ことが分かりました!

要するにpを上げることに集中すればよいのです。

試合中、リードしていて不安になることがあります。これはpを下げます。

リードしているということは、「その後はpが50%を多少割っても勝てる」ということですので、pを維持することのみ考えればいいのです。

まだ試合の序盤なのに、先のこと(=試合を勝つこと)ばかり考えてチグハグなプレーをしてしまうことがあります。これもpを下げます。

これも「目先の1ポイント」だけに集中して、すなわち「どうやったらpが高まるか」だけを考えてプレーし続けることで対処できます。

pを上げることだけに集中できるようになったら、あとは方法論です。サーブの威力を少し上げて確率が落ちてしまっても、入った時にポイントを取れる確率が十分上昇するならば結果的にpは上がります。

p=(ボールが入る確率)×(入った時にポイントが取れる確率)

なのです。

1stサーブの確率は高ければいいってもんじゃなく、この掛算の値を最大化するような確率が存在するので、それを探ることが秘訣となります。

「期待値で考える」というやつです。

どうでしょう?このように逆算、逆算で考えてやるべきことを細分化すれば、最終結果である試合の勝率を高めることができると思います。

戦略として「見せ球」「捨てポイント」を使うことの有効性は認識していますが、それだって将来のpを上げるための布石であるわけで、基本的には「pを上げる」という基本コンセプトが有効かと思います。

「目先の1ポイントに集中する」は私のテニスにおける第1の座右の銘です。

13 件のコメント

  • さすが団長です。
    大変おもしろい分析ありがとうございました。
    この分析、30年前の現役時代に目にしていれば
    きっとその後のテニス人生が変わったと思いますwww

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  • 出たぁ~。団長の真骨頂。
    途中、左脳が機能停止しましたが、右脳のモロヘイ野を駆使してなんとか最後まで読むことができました。易しい(優しい)解説のお陰です。
    「勝負の世界、勝つか負けるかのフィフティ・フィフティだぁ」なんてたかを括って居ましたが、それも遠からずですね。どんなに強い相手と対戦するときも、どんなに困難な事に挑戦するときも、「一球入魂」。目前の小さな事に集中する。 勝機はある!!

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  • jijiさん

    ありがとうございます。
    今からでも遅くはありません。目指せ全日本ベテラン!!

    C太郎さん

    おかしいですね、あなたのモロヘイ野は先日、私が食べてしまったので思考停止に陥っているはずなのですが。

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  • 私的には立て続けにタイムリーな記事、数式アレルギーな私でも何とか読み切りましたよ。
    目の前のポイントを取ることにより集中する ってことでOK?
    私的にとても勝ちたいモード(徹底的に打ち負かしたいヤツがいるので)なので早速実践(検証?)あるのみです。

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  • 団長様

    このような記事はたまらなく好きで、今回も興味深く読ませていただきました。同じような内容が、その昔、30年くらい前に出版された「テニスの科学」という本に載っていたように記憶しています。1ゲーム、1セット、3セット、5セットと、「単位」が大きくなるごとに、「ちょっとの差」が「大きな差」になっていくのですよね。そういう意味で「テニスには一発逆転満塁ホームランはない」と書かれていました。5セットマッチであるグランドスラムにおいて、あれだけフルセットの試合が多いということは、仰る通り、本当にポイント獲得率が50%付近で拮抗しているということですが、それが少しの差でもあろうものなら、簡単にセットカウント3-0になるということですね。これを長い目で見ると、強い時のフェデラーは、その「少しの差」を常に安定してキープしていたために、結果として「大きな差」、つまり4年間に渡ってNo1もキープしていたのでしょう。

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  • ちょっと話題から外れますが、IMGアカデミーにブラッド·ギルバートがコーチとして招かれるとのことでしたが、テニスクラシックに「ウイニングアグリー2」が6月に出ると書いてありました。

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  • 面白い記事をありがとうございました。
    一度読んだだけでは理解が難しい記事(ポイントランキングシステムの変更のシリーズなど)、面白かった記事などは、マイドキュメントに別に保存していますが、こちらの記事も入れます。

    ギルバートの本を読んで、試合に出場し、目先のポイントに集中…そんな日を心から待っている!

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  • たなーさん

    要はそういうことです。
    それを理由づけるために、くどくどと書いただけですww

    Shinさん

    私もこういう計算がたまらなく好きです。
    「テニスの科学」30年前の本なんですか。さすがにテニスを始める前なので、知らない本です。たぶん絶版でしょうけど、読んでみたいです。

    フェデラーについてのご考察は私もそう思いますね。
    少しの差なんでしょうが安定してpが高かったということだと思います。
    今はちょっと不安定で心配ですね。

    たなーさん

    ウイニングアグリー2、間違いなく買うと思いますw

    えみっちさん

    情報ありがとうございます!
    あとでまとめ書いておきます。

    Nosaさん

    マイドキュメントに保存とは。
    プリントアウトもしたりしてるようだし、勉強熱心というかそこまで読みこんでもらえると書いた甲斐があるというものです。

    次回はグラフ化してもっとわかりやすくします。

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  • 逃げてしまった内の一人です。すみませんです。
    やっとゆっくり記事を読んだのですが、団長さんさすがです。
    デ杯の時、鼻血ファミリーのサインが当たる確率をすぐさま計算し、その計算通り3人が当たった時は鳥肌もんでした。
    その時から、「このお人はただもんぢゃない」と思いました。
    (気付くの遅いのですが…)
    数字で見るテニスも、なるほど面白いですね。
    理論や数字にめっきり弱いのですが、これからは逃げずにじっくり理解するまで読むようにします。

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  • p=(ボールが入る確率)×(入った時にポイントが取れる確率)

    このバランスを自分で試合毎、もしくは試合の最中も把握しながら試合を進めていけばよいのですね・・・。いつも最初から飛ばす根性テニスの私が試合中にそんなこと考えられる確率はゼロですが。。。

    トライはしてみます。

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  • おっしゃる議論が正しいのかどうか私にははっきりしません。

    確率pは、いわばポイントを取る「ポイント力」とも呼ぶべきものですから、当然、コートの状態やメンタル面をも含めた総合力と見るべきでしょう。

    そうでないとしたら、最初からpを、
    p1: 不利な場面
    p2: 平常心を保てる場面
    p3: 少し有利な場面
    p4: 楽勝で勝てそうな場面
    p5:

    pn:
    等無限の場合分けが必要となります。これは不可能なことですから、pはこれらすべての場合を含んだ確率としか定義できないでしょう。

    「試合中にpを高める」という議論はナンセンスではないでしょか。これが出来るならばpの設定値がもともと高くなければならず・・・これをやると無限のジレンマに陥ります(そもそもそういうケースも含んだ上でのpなのですから)。
    つまり、ここぞという時にポイントを決めることが勝負に勝つことに大きく貢献することは事実であり反論の余地なしですが、このことを説明するのと上の確率pの議論は無関係でしょう。

    私の議論に自信はないのですが、納得もできなかったのでつい書いてしまいました。
    お許しを・・・

      引用  返信

  • ナダルの強さ:フェデラーの強さ=14470:11020 と仮定しますと、

    「試合」でナダルがフェデラーに勝つ確率は

    14470 ÷ (14470 + 11020)= 0.57

    となります。

    「試合でナダルがフェデラーに勝つ確率57%」

    を基準に、団長さんの確率pを逆算できたとしたらどうなるでしょうか?
    仮に試合が5セットマッチならば、pは限りなく0.5に近い数字になるでしょう。
    0.50001 くらいかも知れませんね。

    テニスに限らず、どんなスポーツでも「基本のシュート力」に様々なプロセスが数多く加わります。それらが多く加われば加わるほど勝敗の期待値に差が生じるのだと思います。個々のプロセスは掛け算になりますからね。

    錦織がナダルに勝つ確率は、

    875 ÷ (875 + 14470)= 0.06 (小数点第3位を四捨五入)となり、

    錦織がナダルに勝つ確率は 6% です。
    この6%は、何セットマッチでの確率かわかりません(決められない)。

    仮に5セットマッチだとして、
    q=(1-0.6)=0.4 の時に、勝つ確率が 0.04% でしたから、
    「錦織くんがナダルに勝つ確率6% 」・・・はその100倍以上の驚異的な数字になります。つまり錦織くんのナダルに対するポイント%は40%どころか、ずっと50%に近いことでしょう。

      引用  返信

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     テニスを愛する理系人間。よく理屈っぽいと言われる。  プレースタイルはサーブアンドボレー、というよりサーブ。ストロークは弱い。  2008年2月15日に本ブログを開設。その数日後に錦織圭はあのデルレイビーチ優勝を成し遂げる。  錦織圭の存在を知ったのは2004年。その後2006年全仏ジュニアベスト8で再注目。2007年のプロデビュー(AIGオープン)で錦織の試合を初観戦。その後の活躍を確信し、今に至る。